アメリカの長期金利が上昇しても金に投資していいのか
このように、相場が動き続けるには、つねに新たな材料が供給される必要がある。とくに地政学リスクに関しては、いったん戦争状態に入るまで状況が悪化しても、そこで「材料出尽くし」となり、価格下落のきっかけになる場合が多いことも忘れるべきではない。 これは2022年2月22日に始まったロシアによるウクライナ侵攻でも当てはまる。ロシアがウクライナに突如侵攻した際には、金価格は一時大きく反応した。だが、現在も戦闘は続いているが、市場はほとんど材料視しなくなっている。
また、古い話だが1990年、イラクがクウェートに侵攻したことに端を発した湾岸戦争でも、多国籍軍がイラクへの空爆を開始した時点で材料としては出尽くしとなっている。 ■株価急落時、マネーは必ずしも金市場に向かわない さらに、“安全資産”としての金需要という点では、株価急落時の金上昇のシナリオもある。投資家のリスク回避の動きが加速する中、株式市場からの逃避先として、金に買いが集まる可能性がないわけではない。
だが 、こちらもつねに当てはまるわけではない。確かに株価調整が相対的に小幅で、資金が一時的に移動するだけなら、金にもしっかりと買いが集まってくることが多い。だが、調整が大幅かつ長期的なものとなり、市場の不安が極端に高まった場合はまったく別だ。 いわゆる「xxショック」と言われるようなパニック的な急落のときは、リスク回避の動きが加速、価格が変動するものはすべて「リスクのある資産」と見なされる。その結果、すべての資産が現金化されることがあっても何ら不思議ではない。こうした「キャッシュ・イズ・キング」(現金こそ王様)と呼ばれる状況に陥った際には、当然、金市場からも資金が流出することになる。
まさに2008年9月に起きたリーマンショックの際がそうだった。大手証券のリーマン・ブラザースが破綻した直後こそ、金市場には“安全資産”としての買いが大きく集まった。だがその後、株価の下落に歯止めがきかなくなってくると、それを追いかけるように売り圧力が強まり、金価格は破綻直前の水準を大きく割り込むまでに値を崩した(ただし、危機が落ち着くと、いち早く値を戻した)。 今後も、金価格は高止まりを続ける可能性が高そうだ。だが、市場の不安が極度に高まった際には、金市場さえも“安全資産”としては見なされなくなることは、しっかりと頭の片隅にとどめておいたほうがよい。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
松本 英毅 :NY在住コモディティトレーダー