ブルックス ブラザーズのボタンダウンシャツ。世界中で最も愛用されている国は、日本?
ボタンダウンシャツ(BDシャツ)が世界中で最も愛用されている国は、日本ではないでしょうか。(注)データに基づかない、あくまで個人的な見解。 【画像】もっと写真を見る(7枚) 特にネクタイをしないシーズンにおけるビジネスマンの着用率はダントツ。そのうえ、スポーツブランドをはじめコンビニ(ローソンなど)まで扱っているという日本の状況は、このシャツを生み出したニューヨーク出身のジョン・E・ブルックスが見たら、さぞかし驚くことでしょう。 本家アメリカでは、トラッド愛好者や東部の有名大学を卒業したエリートが着ているのを見ることはありますが、日本のように通勤中に必ず何人も見かけることは、まれだと聞きます。たまにテレビでアメリカ政府の高官が着ているのを見かけることがありますが……。 ということで、今回はボタンダウンシャツの温故知新。 回りくどい書き方でしたが、今回は100年以上前に初めてこのシャツを生み出したアメリカのブルックス ブラザーズの最新コレクションからチョイス。 実は、2024年秋冬から新しくジャパン トラッドというカプセルコレクションがスタートしていて、その第1弾の監修が、ビームス Fのディレクターの西口修平さん。イギリスやイタリア、フランス、アメリカのクラシックなメンズウエアに精通しつつも、ビンテージアイテムも好物というお方で、海外のファッション関係者も彼のスタイリングや商品セレクト眼には、一目置くほど。ちなみに、彼のInstagramは、15万人超え。 西口さんが着用しているボタンダウンシャツがその最新コレクション(それ以外は本人私物)なのですが、一見すると定番商品と変わらないように見えますが、実はプロならではの隠し味が随所に加えられていました。 いちばんわかりやすいのが、前身頃に付いているボタンの数。定番モデルよりも1個少ない6個仕様なのです。ここは、ブルックス ブラザーズのビンテージシャツを何枚も持っているという西口さんならではのこだわり。 6個仕様は80年代に採用されていて、西口さんが考える理想のボタンダウンシャツだとか。首元が開きすぎず詰まりすぎない絶妙なバランスで、襟先からのロール(曲線)と前立てがきれいにつながるところがポイント。 シルエットは、ビンテージに近いゆったりめなので、アメリカントラッドの王道スタイルから、トレンドのビックシルエット風の着こなしまでカバーできます。 ジャパン トラッドのシャツは4種類。西口さんが着用しているホワイトのみシルクをブレンドし、残りの3種類は最高級のアメリカ製スーピマコットンを使ったオックスフォード生地を採用。 すべてこのコレクションのために西口さんがチョイスしたオリジナルカラーだとか。ここまで聞けばブルックス ブラザーズのファンならずとも手に入れておくべき名品だと思うのは私だけでしょうか。 今回のこのボタンダウンシャツの織ネーム(首元のブランドタグ)をアップして見るとTHE ORIGINAL POLO SHIRTと入っているのがわかります。 実はブルックス ブラザーズでは、このシャツが生まれたときのエピソードをリスペクトしてポロシャツと呼んでいました。 ここでちょっとメンズファッションがわかっていれば、「なぜこれがあのポロシャツの元祖なの、デザインが全然違うけど?」と疑問に思うはず。 ここを解読するには、約100年以上前のブルックス ブラザーズの創業者の孫、ジョン・E・ブルックスのあるエピソードを知る必要があります。1894年にジョン・E・ブルックスは旅行先のイギリスで見たポロ競技の選手が着ていたシャツに触発され、帰国後襟にボタンを付けたオリジナルデザインのシャツをニューヨークのショップで販売。それが現在のボタンダウンシャツのルーツと言われています。 ここで間違えてはいけないのが、1900年前後のポロ競技の選手が着ていたシャツは、ほとんど伸び縮みしないシャツ生地でできた普通のワイシャツが主流(一部のシャツは、激しい運動中に襟がプレイの邪魔にならないようにボタンで留められていた)だったこと。だから、ジョン・E・ブルックスは、この斬新なデザインのシャツをポロシャツ(ポロ カラー シャツ)とネーミング。 諸説ありますが、現在のポロ競技で着られているようなデザインのポロシャツに変わるのは、1930年代にルネ・ラコステがテニス用の半袖ジャージー素材シャツを発表したあと。このテニス用シャツは、汗が乾きやすく伸び縮みするので激しい運動をしてもストレスが少なく、襟がついているのでフォーマル感が出せることもありポロ競技の選手も愛用する事に。 そして時代を経ていつの間にかテニスシャツとして生まれたものが、ポロシャツと呼ばれるようになった?というのが私の見解です。 (注)1900年前後のポロ選手やラグビー選手は、ジャージ素材の丸首の上着(今のトレーナーに近いもの)を使うこともあったようです。ルネ・ラコステがその素材を自分用のテニスシャツに採用したという逸話が、この話をよりややこしくしています。 ボタンダウンシャツのことで取り上げておきたかったのが、「このシャツにネクタイをしていいのか、結婚式でボタンダウンシャツはNGか」ということと、「1900年代初頭のボタンダウンシャツがいったいどんなものだったのか」という疑問と謎に対する答え。 それを解明する書籍(写真集)を今回見つけたのでここでピックアップしておきます。 まず、ボタンダウンシャツにネクタイをするのは、アメリカントラッドの流儀では問題なし。70年代のブルックス ブラザーズのカタログでもネクタイ着用のイラストがほとんどです。日本ではビジネスシーンでのノータイのイメージが定着しましたが、実はネクタイOKなのです。 よく聞くお悩みに、「結婚式でボタンダウンシャツにネクタイで出席してもいいのか?」というものがありますが、日本の結婚式ではNG。年配の出席者からクレームが出るのは明らかですから……(注)リゾートでのカジュアルな結婚式なら大丈夫。 次の謎は、ICON OF MEN'S STYLE(JOSH SIMS著)のボタンダウンシャツの章で解決。1920年代にベストセラー小説をいくつか書き上げたアメリカ人作家のF・スコット・フィッツジェラルドが、ブルックス ブラザーズのシャツを着用との記載のあるポートレートが載っていたのです! これを見ると襟先にはボタンが付けられていて、かなりやわらかそう。当時スーツに合わせるシャツは、糊づけされピシッとアイロンがかかった硬いプレーンな襟だったことを考えると、F・スコット・フィッツジェラルドのこのシャツが、当時のニューヨークの最先端ファッションで、かなりユニークなデザインだったことがうかがえます。 ちなみに、F・スコット・フィッツジェラルドは、ニューヨークのトレンドやゴシップを巧みに取り入れた小説を書いたことで有名。代表作は1925年に発表された「グレート・ギャツビー」。空前の好景気に湧くニューヨークで成り上がった男の物語で、1974年にロバート・レッドフォード主演、2013年にはレオナルド・デカプリオ主演で映画化されています。 問い合わせ先/ブルックス ブラザーズ ジャパン 0120-02-1818 https://www.brooksbrothers.co.jp/ ベンガルストライプのシャツをブレザー&ネクタイでスタイリングした一例がこちら。ネクタイは、王道のレジメンタルタイもいいのですが、今年の秋はビンテージ感あるブラウンベースの幾何学模様のタイがオススメ。ゴールデン フリースが彫られたメタルボタンとの相性も抜群。 シャツの襟のボタンは、きちんと留めておくのがアメリカ流で、わざとはずすのがイタリア流。ここはお好みですね。画像では襟のボタンははずしています。特にストライプ柄の場合、よほど近づかない限りボタンホールが付いていることがわからないので、レギュラーカラーのように見えます。ただ、目のいい人(または親切な人)からは、「ボタンはずれていますよ」と忠告されることも。 Photograph & Text:Yoichi Onishi 大西陽一 数々の雑誌や広告で活躍するスタイリスト。ピッティやミラノコレクションに通い、日本人でもまねできるリアリティーや、さりげなくセンスが光る着こなしを求めたトレンドウオッチを続ける。
朝日新聞社