5類移行から1年。コロナってどうなったの? コロナってなんだったの?
「日本や世界の今の状況を見て『コロナ禍の初期にはあれほど厳しい感染対策が必要だと言っていたのに、なぜ、今はこんなに緩くても大丈夫なのか? そもそも、あれほど厳しい行動制限などの感染対策や大規模なワクチン接種なんて本当は必要なかったんじゃないか?』というようなことを言う人がいます。 しかし、それは大きな間違いで、その人たちはわれわれが"新型コロナ"と呼ぶウイルス自体が、あの当時と今ではまったく別のものになっているということを理解していないんです。 世界的なパンデミックが始まった2020年頃の新型コロナは本当に怖い病気でした。最初に流行が始まった武漢でもバタバタと人が亡くなっていましたし、これまでエボラ出血熱やSARSなど、多くの感染症を見てきた僕も、クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』に乗り込んだときは本当に恐ろしかった。 まだ、有効なワクチンや治療薬がなかった中、重症化率も死亡率もそれなりに高かったあの頃の"新型コロナ"に対しては、すべてのイベントをキャンセルして、厳しい行動制限や感染対策を徹底し、可能な限りウイルスの封じ込めを目指すというのが、私たちのできた唯一の対策でした。 実際、欧米諸国などと当時の人口当たりにおける死亡者数を比較しても、日本が行なった感染対策はおおむね正しかったのではないかと僕は思っています。 その後、ワクチンが実用化されて大規模な接種が進んだ。そして、オミクロン株が登場し、それ以前のデルタ株に比べてウイルスの病原性が下がった一方で、感染力が大きく増したため、厳しい感染対策が次第に大きな意味を持たなくなっていきました。 そうやって、ウイルスそのものも変化したし、私たちの人間の側の免疫状態も変化した。その結果、2024年現在の新型コロナウイルス感染症は以前とはまったく別の病気になったんです。そのため、かつてのように一生懸命、厳しい感染対策をする意味もなくなり、社会が普通に回るようになったということだと理解していいと思います。 ただし、非常に残念......というか、ある意味で予想どおりともいえますが、こうしてなんとかコロナ禍を乗り越えた今だからこそ、これまでの対策や政策の中で、どこが正しく、どこが間違っていたのか? 何が有効で、何がムダだったのか? コロナ禍の約4年間を振り返り、しっかりと考えるべきだと思うのですが、日本では国もメディアも『もう終わったこと』にして振り返ろうとしない。 仮に感染対策の方向性としては基本的に正しかったとしても、それが社会や個人の生活に与えたネガティブな影響を補うために、より効率的で実効性のあるサポートを行なう方法はなかったのか? また、コロナ下で、なぜ、深刻な社会の分断が生まれてしまったのか......など、本来なら徹底的に検証をすべきなのに、すべてが曖昧なまま、前へ進もうとしてしまう。 これは、東日本大震災の際の原発事故や過去の戦争についても同じで、いわば、日本社会の悪いクセなのかもしれませんが、実にもったいないと思いますね」