「加害者の経験も無駄にしないように」 松永さん一問一答 池袋暴走
東京・池袋で2019年に母子が死亡した暴走事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)で禁錮5年の実刑判決が確定し、収監中だった飯塚幸三受刑者(93)が死亡した。事故で妻の真菜さん(当時31歳)と長女莉子ちゃん(当時3歳)を亡くした松永拓也さん(38)は25日、沖縄県西原町での講演後、報道陣の取材に「私たち遺族の経験も、加害者になってしまった彼の経験や言葉も無駄にしないように、社会がどう変わっていくのかが一番大事だ」と語った。【喜屋武真之介】 ◇松永拓也さん 先月26日、飯塚幸三氏が刑務所で亡くなりました。正直すごく複雑な気持ちで。裁判中は「刑務所に入ってほしい」と心を鬼にして闘いましたが、非常に高齢ということもあり、刑務所で亡くなる形になってしまった。もちろん、妻と娘も交通事故被害者になんてなりたくなかった。無念だったと思う。私たちも交通事故遺族になんてなりたくなかった。ただ、彼も若い女性と幼い子どもの命を奪ってしまい、刑務所に入ることになって、そのまま命を落とすというのは非常に無念だったのではないか。 交通事故は誰も幸せにならない。だから絶対に起きてはいけない。少しでも、交通事故で苦しむ人は減らさなきゃいけないと改めて思う。私たち遺族の経験も、加害者になってしまった彼の経験や言葉も無駄にしないように、一番大事なのは、同じような過ちを、犠牲を作らないこと。社会がどう変わっていくのかが一番大事だと思う。少し嫌なことを言うかもしれませんが、妻と娘と出会うことがあるなら、一言、謝ってほしい。それ以上に、彼に対する言葉、気持ちは今はないです。ご冥福をお祈りしたいと思います。一番大事なのは再発防止だと思っているので。 ――飯塚受刑者から届いた手紙にはブレーキとアクセルを踏み間違えたという認識が書かれていた。 松永さん 彼は、自分の過ちであると。踏み間違いであることと、後悔と謝罪の念が書いてありました。それは事実です。 ――彼がそういう認識を持つに至ったことをどう感じたか。 松永さん 彼の中では「踏み間違いではない」という認識があったので裁判で争う選択をしたが、いろいろと自分自身と向き合う中で考え方が変遷していったという旨が書いてありました。裁判の結果を経て、自分自身と向き合い、「過ちがあった」と素直に思えたんじゃないかなと、手紙を見て思いました。 ――死亡の連絡が届いたときの気持ちは。 松永さん 正直、ついにこの日が来たんだなと。会ったとき、起き上がることもできず、声を出すのもままならない状態だった。だから、会話できて良かったなと思うんですが、ついに亡くなったんだなというのが率直な感想でした。 ――会ったときの思いは。 松永さん 私は再発防止のために彼の言葉と経験を生かすんだという思いで会った。彼はその思いに応えてくれた。会わなくても良かったわけですから。面会は断ることができるんですよ、強制じゃないから。だけど受けてくれて、言葉がうまく出ない中で一生懸命応えてくれた。彼は、再発防止にかける私の思いをくんでくれたんだと思うので、彼の思いは無駄にしないようにしたい。 もちろん被害者遺族なので、裁判で苦しめられたので、許すとかは私はたぶんない。許せないかもしれない、一生。だけれども、彼の言葉や彼の思いを認めることはできる。許すことはできなくても。だから彼の言葉や経験を無駄にしないようにしたい。彼は彼で加害者にしか分からない苦悩があったと思うし、どちらの経験も苦悩も二度と同じことが生まれないように役立てていきたいと思う。彼の言葉も、自分の言葉も、真菜と莉子の命のことも、すべて再発防止のために社会に伝えていきたいと思っています。