乳がんになった人の月経トラブルや更年期不調、どう解決できますか?【我慢しないで快適に過ごす、閉経への道 ⑨】
【教えてくれたのは】 対馬ルリ子さん 産婦人科医・医学博士。1958年生まれ。対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座・新宿理事長。女性の生涯にわたる健康推進活動に積極的。『「閉経」のホントがわかる本 更年期の体と心がラクになる!』(集英社)が大好評。
乳腺外科と婦人科、きちんと連携してもらうことが理想
「乳がんになったことのある人、治療中の患者さんはたくさんいますよ。特にコロナ後からものすごく増えている印象です」と話すのは、OurAgeでも更年期や閉経、子宮筋腫など婦人科系のテーマでの解説が好評を得ている産婦人科専門医の八田真理子さん。 「乳がんのホルモン治療、ホルモンを抑える薬の副作用で、更年期のような不調がある人ももちろん多いです。ホルモン治療が終わっても、症状が本当につらくて相談してくる人もいますが、どちらかというと患者さん自身が『我慢すればいいんだ』と思ってることが多いですね。 乳がんのタイプでホルモンの感受性があるかどうかにもよりますが、もし本人が症状がつらくてホルモン補充療法(HRT)を希望しているのであれば、私はやってもいいと思っています。経皮で吸収するタイプのエストロゲンと天然型の黄体ホルモンの組み合わせを使ってね。 乳がんの既往歴がある人は、乳腺の先生の許可が必要なんですが、HRTのガイドラインでは『乳がんは禁忌』と書かれちゃってるので、無理にはできない。最近の研究結果やHRT製剤の進歩から、乳がんを悪くさせる可能性は低いと考えていますが、多くの乳腺の先生は反対されるでしょう。データがもうだいぶ蓄積されてると思うのに、なかなか世の中が変わらない。HRTで乳がん再発のリスクが上がるんじゃないかという雰囲気はなかなか変わらないんです。 HRTどころかサプリメントのエクオールですらだめという乳腺の先生も半分くらいいるんです。エクオールにエストロゲンの効果があると思ってらっしゃる方も。エクオールはエストロゲンそのものじゃないんですけどね。同じような構造を持ってるけれど、あくまで植物性のサプリメントなので乳がん再発のリスクにはならないと、どんなに私が訴えても、乳腺の先生には曲げられない人もいるわけです。 私たち婦人科と乳腺科の先生、本来はちゃんと連携ができていないといけないんですけど、たいていは患者さんが『乳腺の先生に聞いてきます』と行ってきて、『だめでした』と帰ってくる。そう言われたらやっぱり『エクオールも嫌だな』と言って飲まない、乳腺の先生に止められたんだものって。 だから、更年期症状が強ければ多くの場合はSSRI(*1)、安定剤とかを使うかな。乳がんの治療でGnRHアゴニスト(*2)などで閉経状態にすると、ホットフラッシュが強く出る人が多いんですけど、タモキシフェンSERM(*3)とか使うとそんなにつらくない。タモキシフェンは女性ホルモンと類似作用を持つので、乳腺に対しては抑制的に働くけど、子宮体部に対しては促進的に働くので、腟の乾燥なんかも全然出ないし、すごくいいことがありますね」 *1/SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬のことで「Selective Serotonin Reuptake Inhibitor」の略称。一度放出されたセロトニンの細胞内への再取り込みを阻害して脳内のセロトニン濃度を上昇させ、神経伝達をスムーズにして、抗うつ作用および抗不安作用がある薬。 *2/GnRHアゴニスト:閉経前の女性に対し、一時的に閉経状態にして、エストロゲン依存性の乳がんの成長を抑える薬。視床下部からのホルモン分泌を調整し、卵巣からのエストロゲンの分泌を間接的に抑制。代表的な薬剤としてリュープロレリンやゴセレリン。 *3/タモキシフェンSERM:選択的エストロゲン受容体調節薬のことで、エストロゲン受容体をブロックし、がん細胞にエストロゲンが作用するのを防ぐ。特定の組織ではエストロゲン作用を抑える一方で、他の組織ではエストロゲン作用を模倣する特徴があり、骨や子宮ではエストロゲンのように働く一方、乳腺組織ではエストロゲンの効果を抑える働きをする。 「乳がんにHRTはNGと決めつけるんじゃなく、製剤によっても違うので、乳腺の先生と婦人科と相談しながら最適な方法、治療法を見いだしていくのが理想ですね。 そして、私がアドバイスするのは日常生活。やっぱり食生活は発酵食品でしょう。味噌とか、豆腐、納豆とか、日本人が古来食べてきたような食事をとるのが、いちばんいいんじゃないかと思います。 あとは運動ですね。運動することが、乳がんの再発リスクを下げることはわかってると思うんです。乳がんサバイバーの人向けに運動教室をやってるところもあります。運動に勝る薬はないと言ってもいいくらい。 でもね、運動のやりすぎもだめなんですけどね。活性酸素が出すぎて逆効果になってしまう。そのあんばいがなかなか難しいところですが、活性酸素が出すぎるほどやりすぎず、ほどほどにぜひ続けてほしいですね」
【教えてくれたのは】 八田真理子さん 産婦人科専門医。幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行う地域密着型クリニック「 聖順会 ジュノ・ヴェスタ クリニック八田」院長。著書に『思春期女子のからだと心 Q&A 資料ダウンロード付き』(労働教育センター)、『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)ほか。 イラスト/Shutterstock 取材・原文/蓮見則子