【年金繰り上げ受給】夫婦で選択できるのは3パターンしかない…年金博士がアドバイス「2人とも繰り上げるのは最終手段」
65歳より前に年金受給開始できる代わりに年金が減額される「繰り上げ受給」を選ぶ人は年々減っているが、それでも国民年金受給者の約27%に及ぶ。繰り上げ受給の注意点や方法について“年金博士”が解説する。【年金改正で知るべき「繰り上げ」「繰り下げ」タイミング・第3回】
「60~70歳」の間であれば、繰り上げを選んでも繰り下げでも男性の平均寿命の約81歳までの年金合計額はほとんど変わらないが、平均寿命の延びで「人生100年時代」といわれるなか、年金額が減る繰り上げの将来的なリスクは大きい。 年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏はこう語る。 「ライフスタイルにもよります。繰り上げすれば月の年金額が減額されますが、生活が苦しくてやむを得ず繰り上げ受給する人もいます。あるいは健康寿命(男性約73歳、女性約76歳)を考えて、先に年金をもらって健康なうちに活動的にお金を使いたいという人には選択肢の一つでしょう」 2022年4月からは繰り上げの年金減額率が引き下げられ、受け取れる年金額も増えた。 それまでは60歳繰り上げであれば年金額が30%も減っていた(1か月の繰り上げごとに0.5%減額)が、2022年4月以降は60歳受給で24%減(1か月の繰り上げごとに0.4%減額)になった。年金16万円のケースで計算すると、60歳繰り上げを選択した場合の年金額は11万2000円から12万1600円に引き上げられた。 また、60歳から働きながら年金を受給する場合、給与所得控除と公的年金等控除を受けられるため、給料だけで同じ額を稼ぐ人より税金が安くなって手取りは大きくなる。
夫婦の年金繰り上げは3パターン
それでは、繰り上げの方法にはどんなパターンがあるのか。 繰り上げは1階部分と2階部分を一緒に繰り上げなければならない。そのため、夫婦の年金繰り上げは3パターンしかない(別掲図)。 「お勧めできないのが妻だけ繰り上げ(パターンB)です。女性のほうが平均寿命が長いことを考えると、たとえ繰り上げで年金を早くもらうにしても、妻の年金が少なくなる選択は得策ではありません。現実的なのは、夫の年金だけ繰り上げる方法(パターンA)。それでも65歳までの雇用継続が義務化された時代にわざわざ60歳から少ない年金をもらうのはリスクが大きい。できるだけ受給を我慢して、繰り上げ期間を短くすることをお勧めします」(北村氏) 夫婦とも繰り上げ(パターンC)は、「病気で働けないとか、65歳の年金受給開始まで生活の目処が立たないやむを得ない時の最終手段と考えたほうがいい」(同前)という。 ちなみに、この3つの繰り上げパターンの80歳までの夫婦の年金受給総額を試算すると、大きな差はないことがわかる。 繰り上げ、繰り下げとも選び方で毎月の年金額には大きな違いが出るが、生涯の受給総額を考えると、どのパターンを選んでも損得が生じるのは、80代以降と言えそうだ。 そうであればなおさら、70代までのライフプランに合わせて、年金をいつ、いくら受け取るかをしっかり設計しておくことが重要になるはずである。 ■はじめから読む:年金制度改正の目玉「在職老齢年金のルール見直し」で“繰り下げ受給”のメリットが大幅増 働き方次第で「年間10万円以上」の恩恵も ※週刊ポスト2025年1月17・24日号