評価額530億円の「禁煙支援デバイス」が挑む、米FDA承認のハードル
12週間の禁煙プログラム
「これは非常に長い道のりになる。最初に、基礎となるサイエンスの承認が必要で、それに基づく臨床試験を経なければならない。また、新たな投与のメカニズムがあれば、デバイスのチェックも受ける必要がある。長く、厳しく、高額なプロセスになる」 そう語るレビーは、キノービアに投資していない。 また、FDAはこれまで禁煙薬の承認に厳しい基準を設けており、喫煙者が少なくとも4週間タバコを完全に絶つことができた場合にのみ承認を与えてきた。しかし、この基準も緩和される可能性がある。FDAと国立衛生研究所は最近、「ニコチン接種の削減に意味のある貢献をする治療法」を承認対象に加える可能性を示唆する論文を発表した。 ■12週間の禁煙プログラム RespiRxを用いた禁煙治療は、12週間のプログラムを通じて喫煙者が接種するニコチンの量を毎日少しずつ減少させていき、最終日にニコチンを断つことを目指すものだ。「これは段階的な治療法だ」とクイグリーは説明した。 一方、スタンフォード大学医学部の教授で禁煙治療の専門家であるジュディス・プロチャスカは、ニコチン代替療法に対するFDAの承認プロセスの厳しさとタバコ会社からの新たなニコチン製品の絶え間ない流入が、キノービアのような企業の成功を難しくしていると述べている。 彼によると、経口ニコチンパウチのZynのような製品がFDAの承認を得るのは、禁煙薬の承認よりもはるかに簡単だという。FDAは過去10年間で45の新たなタバコ製品を承認したが、2006年以来、新しい禁煙薬を1つも承認していない。 しかし、ニコチンパウチやガムなどの市販のニコチン代替療法の製品は数十年にわたり市場に出回っているが、どれも特に禁煙に効果的ではなく、成功率は約10%にとどまっている。ファイザーのチャンピックスは「タバコを吸いたい」という意欲を抑えることで約30%の成功率を誇るが、悪夢や吐き気などの懸念すべき不快な副作用を伴う。 キノービアのアプローチがFDAの承認を得られるかどうかはまだ不明だが、この製品は、「ニコチンを体内に迅速に取り込める点」が、他の製品よりも優れているとクイグリーは述べている。ニコチンパウチやガムは、喫煙の欲求を満たすまでに数分から30分もの時間がかかる場合があるが、その時間の長さが禁煙を難しくしていると彼は説明した。 ■2026年には英国で発売へ もちろん、禁煙薬の開発を試みている他の企業もある。Achieve Life Sciences(アチーブ・ライフ・サイエンシズ)は、13年間にわたり禁煙薬の開発に取り組んでおり、脳内のニコチン受容体に結合して欲求を抑え、ニコチンの禁断症状を軽減する植物由来の薬を開発中だ。この薬を12週間にわたり服用した治験参加者の21%が、6カ月間の禁煙に成功したという。しかし、FDAは同社に追加の1年の安全試験を実施するよう求めている。 キノービアは現在、米国よりも承認のハードルが低い英国当局の承認を得ようとしており、うまく行けば同社のデバイスは2026年までに市場に出回る見通しだ。同社は、その収益を利用してFDAの承認プロセスを進めるつもりで、将来的にこの製品が爆発的ヒットになると予測している。 「仮に私たちが驚異的な成功を収めた場合、私たちの製品を使う人々はいなくなるだろう。しかし、禁煙は、決して簡単なことではない。それがニコチンへの依存なのだ」と、クイグリーは語った。
Will Yakowicz