復興マルシェにも出店! 地元食材を使ったキッチンカーでふるさと・能登を応援
最新コミックエッセイ「老後のお金が不安です! おひとり様マンガ家50代からの資金計画」が好評発売中のなとみみわさん。そのライフシフトを追いかけた連載の最終回では、チャレンジキッチンカーを経て、いよいよ本格デビューを果たした「BBキッチン」の様子をお届け。 【もっと写真を見る】
35年間暮らした東京を離れ、Uターン移住した石川県でキッチンカー営業にチャレンジしているイラストレーター・漫画家のなとみみわさん。これまで2回にわたり、お試し体験やメニュー開発など、息子のブルースくんと共に奮闘する様子をお届けしてきたが、ついに自身のキッチンカーが2人のもとへ。2種類の豚丼を看板メニューに、いよいよ本格的にスタートした「BBキッチン」での営業のことに加え、かねてから計画中だった能登移住についての現状も聞いてみた。 〝能登の海と空〟をイメージした青い色のオリジナルキッチンカーで営業をスタート! これまでのチャレンジキッチンカーはイベントを主催する会社が用意した車両での営業だった「BBキッチン」。8月末には待ちに待ったオリジナルキッチンカーが納品された。幼いころから青が好きだったブルースくんが選んだ車体の色は、〝能登の海と空〟の色を表現しているのだとか。 「オリジナルキッチンカーを製作する『ビーステージ』が埼玉県の会社だったので、担当の方が石川県まで乗って来てくれました。そのまま営業許可を申請する予定だったので保健所で待ち合わせをし、YouTube用に動画を撮ろうと自分の車でカメラを回していたところにうちのキッチンカーが到着。そのとたん『あれだ!!』といって外に飛び出しました。〝初めまして〟のキッチンカーだったのですが、そんな気がせず、ずっとあったみたいな(笑)。『ついに始まるんだ、これから頑張るぞ!』と気持ちを新たにしました」 中古の軽トラックを改装したオリジナルのキッチンカーは車体価格が約430万円。加えてもろもろの整備や営業許可申請などを合計すると、プラスで100万円ほどが必要だったそう。 「営業するに当たり、まず重要なのが電源問題。現地に電源があるとありがたいのですが、〝水と電源は自分で〟と思っておいた方がいいですね。Jackery(ジャクリ)のポータブル充電器を約40万円で買いましたが、うちは電気をたくさん使うので、それでも足りなくて先日、約7万円の発電機も買い足しました。それからフライパン、かき氷機、鍋、炊飯器、調理器具、そして営業資金も必要ですね。さらにキッチンカーの営業許可を申請するために石川県の保健所に19,000円、金沢市に16,000円という手数料がかかりました」 準備も整い、満を持しての「BBキッチン」デビューは、なとみさんの故郷である鳳珠郡能登町に決定。しかも午前中は三波地区の復興マルシェ、その後に宇出津地区の商店街まつりと、1日で2つのイベントへの出店となった。とはいえ、デビュー戦でイベントをハシゴすることへの不安があったため、本番4日前にブルースくんが働く会社の駐車場でプレオープンをさせてもらうことに。しかし、「段取りも動線もめちゃくちゃで、プレオープンはもちろんダメダメ(笑)」だったことから、不安を払拭することができず。さらに100食分を用意する必要があったため、2人とも一睡もできずにデビュー当日を迎えた。 「生まれた町でオープンできるのはとってもうれしかったですが、大変の一言につきました(笑)。当日は同級生の焼肉屋さんにも手伝ってもらって、なんとか終了しましたが、提供に時間がかかるわ、時間がなさすぎて思ったような味が出せないわもうてんやわんや。5回ぐらい意識が飛んで、泣いて帰りたくなりました。でも、同級生や知り合いがたくさん来てくれたし、いっぱいいっぱい支えてもらって、本当に私は幸せものだな~~と、改めて思いました。親戚のおじさんが『人混みが無理だから、キッチンカーには行けないな~』って言ってたくせに、シャッター音に振り返ると、おじさんが『みわ~、がんばれや~』と写真撮ってまして(笑)。実母や亡き祖母にそっくりな顔して笑ってました。涙が出るほどうれしかったです。いらないっていうのに、『開店祝いや』ってお祝い金を置いて、揚げパンを買って帰っていきました。大変で、反省もいっぱいありましたが、もらったものもいっぱい。絶対リベンジしよう!と、日々修行の毎日です。やっぱりお客様と距離が近いキッチンカーって、素敵だなと思います」 反省点がありながらもハシゴ出店という壮絶な本番初日を終えた「BBキッチン」。その後も「金沢音楽堂」での能登の復興マルシェなどのレギュラー出店のほか、イベントやフェスなど石川県各地で月20回ほど営業している。キッチンカーの出店はどのように決まるのだろうか。 「デビュー戦だった宇出津地区の商店街まつりは、地元の北國新聞を通してのご縁。『故郷に移住してキッチンカーやります!』という漫画を描いていたので、新聞社に連絡が入り出店が決まりました。ほかは〝ほくりくキッチンカー協会〟に登録していて、そこから『こんなイベントあるよ~』とLINEが届くので応募しています。あとは知り合いからお声がかかったり、お問い合わせがきたり。やはりSNSや横の繋がりが大切ですね」 メニューは2回目のチャレンジキッチンカーから登場した、ピリ辛油淋鶏ソースと塩だれの2種類の豚丼に加え、レモネードとシャカシャカポテトが定番化。さらにブルースくんが夜な夜な仕込んでいるという手作りジンジャーエールをはじめ、新たなメニューが続々と加わっている。 「知り合いのキッチンカーの方に『油淋鶏ソースと塩だれを一緒に食べる丼とかいいんじゃない?』とアドバイスいただき、さっそく作ったのがあいがけ丼。これがなかなかヒットです。さらにトッピングもあったほうがいいのではと助言いただき、ピリ辛もやしナムル、温泉卵、肉まし、ご飯ましを追加し、こちらも好評。いいかも!と、思ったことはすぐに試してみる、これが大事ですね。ほかにもいろいろ考案中で生姜焼き焼丼や、冬季限定で能登の食材を使ったスープ、そしてクリスマスにはローストビーフ丼を出したいなと。そして、一度は断念した生パスタやっぱりやりたいんですよね(笑)。いずれ復活があるかもしれません!」 集客に自身の体力など悩みは尽きないけど、キッチンカーに立つのが楽しい! 順調そうに見えるキッチンカー営業だが、始めた当初は集客の面で悩みが尽きなかったそう。 「営業を開始した9月は出店回数もそんなに多くなかったのに、本当に寝る暇がない状態で、毎日寝不足で大変でした。10月からは、出店回数が多ければ普通にそれだけ稼げるかなと安易に考えて営業日を増やしたのですが、現実は厳しく。新しくスタートさせた知名度もないキッチンカーに、足を止めてくれるお客さんはなかなかいなくて。平日の厳しさとか、土日のイベントの必要性とか、イベントは出れば儲かるってもんじゃないとか、たくさん勉強させていただきました。現実ってきびしー!!まさにこれです(笑)。とにかくお客さんに気付いてもらう事が大切なんだな~と。でも、たくさん出店したので慣れてきて、客足の多いイベントでもなんとか2人でいい感じで回すことができるようになってきました。また、ほかのキッチンカーの方とたくさん会えるので、いろいろな繋がりが生まれたり、情報交換できたりと、実りの多い10月でした」 本格的に営業を開始した9月は、出店回数は少ないながら、慣れない準備で毎日寝不足だったというなとみさん。10月に入ると、本業とキッチンカーとやることが山積みなのに、起きていられないほど体力的に限界だったという。 「帰ってきて夕飯食べてたらいつの間にか気絶するように寝落ちして、気がついたら夜中の2時とか。そこから慌てて片付けて、仕込みして~という日々が続き、本当に限界でした。でも、最近は6時間は強制的に寝てます。きっと体の防衛本能が発動しているんだと思います(笑)。キッチンカーを始めたいというきっかけの一つだった『スナックなとみん』ももっとやりたいのですが、なにせ体がもたないというのと、私が本業のイラストの仕事ができないという現実に直面しまして。これからもっと寒くなるし、もう少し様子を見ながらやろうかと。体壊したら元も子もないし無理のきかないアラフィフのわがままボディなので(笑)」 いろいろと一筋縄ではいかない問題を抱えながらも、キッチンカーの営業は「とにかく楽しい」と語るなとみさん。人と接することが、本当に向いているんだなと実感しているという。 「平日の出店では常連さんや友人が来てくれて、お茶を飲みながらおしゃべりすることも。読者さんから『漫画楽しみにしてます』なんて言われることもあって、『あ、結構楽しみにしてくれているんだな~』ってすごくうれしいです。休日のイベント出店は忙しくて、あまりお客さんとお話しできないけど、〝外!〟ってだけでワクワクするし、家族連れとか、カップルとか、みんなが楽しそうにガヤガヤしているのを見ているだけで、幸せな気持ちに。『今日ここに出店できてよかったな~』ってうれし涙が出るほど。ほかのキッチンカーの方とお話しするのもすごく楽しいし、もともと〝人とのおしゃべり〟が大好物なので、ほんとうにやってよかったです。ただ、キッチンカーに立つ回数! 本業はイラストなので、それが侵食されないような回数まで減らしたいな、と思います。息子に頑張ってもらわねば(笑)」 キッチンカー開業ともう一つ、なとみさんのライフシフト計画には生まれ育った能登への移住があった。令和6年能登半島地震で倒壊を免れた実家をリフォームし、移り住むというものだったが、こちらはまだ難航しているようだ。 「リフォームは遅々としながらも進んではいたのですが、トイレの浄化槽が壊れていることが判明。そして、9月末に能登半島を記録的な大雨が襲ったことから職人さんがその水害対応で忙しくなってしまいうちの工事がいつになるやらと。まあ、うちは後回しで大丈夫なんですけどね。ただ、そうなると年内での移住は難しく、先が見えない状況です(笑)」 2つ目のライフシフトである能登移住にはもう少し時間がかかりそうだが、キッチンカー営業という夢はかなえたなとみみわさん。最後にこれからなにか新しいことを始めてみたい、ライフシフトをしたいという同年代の女性に向けてメッセージをもらった。 「私の場合、以前は新しいことをやるって、少しハードルが高いし、ちょっと面倒だし、うまくいくかな~とか、いろいろと考えて、結局考えすぎて面倒になってやらないというパターンが多くて。でも、50歳が近くなって、大切な人の死に直面したり、自分だけじゃなくて友人が大きな病気をしたりそういうのが増えてくると、〝人生のカウントダウン〟が聞こえてきたというか。そうしたら悩んでる暇ないかなっていろいろとやり始めたんです。しかも全然大丈夫って思っていたのに、離婚して一人になったら、想像以上に寂しいし(笑)。それでますますなんかやろう!って。小さいことでもいいんですけど、たとえば『今日は朝からスーパー銭湯行って、駅前の居酒屋でビール飲んでこよう』とか、そういうのから始めて、『とにかくやろう!』を続けていくと、少し癖になるというか。『あ、自分、結構いろんなことできるんだな』と思えるようになり、次第に大きなチャレンジもできるようになりました。そして大きなチャレンジをする時は、いつも『うまくいかなかった時、自分はそれを後悔や失敗にしないかどうか』と考えるんです。『あ~、失敗した。やらなきゃよかった』ではなくて、『勉強になったー。やってよかった』と、いい体験で終わらせられるかどうかが大事。そのうえで覚悟を決められたらやってみる。やってる途中で、『あ、これ違うな~』って思ったらやめちゃえばいいんです。違うことを続けていくことは時間がもったいないので。とにかく私たちアラフィフ世代はあまり時間がないので(笑)、迷っている暇はないですよね!」 文● 杉山幸恵