【独自】「拘束され死亡」精神病院、「ゾウも倒れる」高用量鎮静薬投与(2)=韓国
(1の続き) ■ゾウすら倒すほどの「注射剤」使用 にもかかわらず、高用量の鎮静剤投与は死のその日まで続けられたとみられる。投薬記録を見ると、薬のせいで眠気に襲われ、ふさぎ込んだ被害者には薬を飲み込むのが難しくなったため、後半になるほど経口薬ではなく注射剤が使われるようになっていった。被害者が薬を飲み込めないほど自分の体をコントロールできていないにもかかわらず、むしろ「力価」の高い注射剤を使ったのだ。このような注射剤は、精神障害の当事者の間では、ゾウすら倒すほど強い鎮静効果があるとして「ゾウ注射」と呼ばれている。 結局、Pさんは5月26日夜、腹痛を訴えて閉じ込められていた隔離室(安定室)のドアをたたいたが、病院側は適切な措置を取らず、むしろ保護士と看護助手は5月27日0時30分、Pさんの手、足、胸をベッドに2時間にわたって拘束した。その後、Pさんは息切れ症状と鼻出血が見られたため拘束から解放されたが、それから1時間30分もたたないうちに息を引き取った。国立科学捜査研究院は解剖の結果、死因を「急性仮性腸閉塞」と推定した。 精神科専門医のKさんは、被害者が富川(プチョン)Wジン病院に入院する前に服用していたというディエタミンの問題も指摘する。Kさんは「ダイエット薬として簡単に考えられ、消費されている面があるが、ひどい副作用についてはあまり知られていない」と語る。英国では、研究の結果、その成分であるフェンテルミンが心毒性、激しい依存性と乱用を理由として、2000年に販売が禁止されたという。しかし韓国では市販され続けており、保険対象外薬物に分類されているため、国家モニタリングシステムの死角地帯において、ダイエット薬処方の流行と共に、徐々に処方が増加してきた。 Kさんは、精神科薬物は精神疾患を治す「治療薬」というより、心理、行動の困難を緩和する「調節剤」に近いと説明する。そして「だから薬を適切に活用し、関係中心的な治療を用いなければならない」と強調する。 しかし、韓国の精神疾患の治療環境は劣悪だ。精神健康増進および精神疾患者福祉サービス支援に関する法律(精神健康福祉法)施行規則は、年平均入院患者60人当たり精神科専門医1人、入院患者13人当たり看護師1人を置くこととしているが、このような環境では、薬物を繊細に使用し、カウンセリングを適切に活用する人間中心の治療を行うのは難しいということだ。 Kさんは、このところ相次いで明らかになっている精神病院の患者拘束死亡事故が、問題をあらわにし、省察する機会になれば、と語る。Kさんは、「今回の事件が、精神科医を攻撃するのではなく、精神疾患を見つめ、対処すべき私たちの社会システムについて省察する機会になればと思う。今の治療環境や医師による薬の処方には明らかに限界があるという警告のシグナルだと受け取るべきだ」と述べた。そして市民には、「すべての医療領域と同様、精神医療も効果と副作用の両方がある。それを天びんにかけて使用する知恵が絶対に必要だ」と訴えた。 コ・ギョンテ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )