【いわきの防災対策】産学官連携のモデルに(12月5日)
いわき市で、産学官の連携を強めて今後の災害に備える動きが本格化している。先月の市総合防災訓練では、東北大とトヨタが東北で初めて電動小型モビリティーを津波避難に取り入れるなど、企業や大学・高専、行政機関が多角的に非常時の対応を提案、実践した。市内は東日本大震災や豪雨で甚大な被害を受けてきた。訓練の成果や課題をつぶさに検証し、住民の力も生かしながら安心して暮らせる防災都市を築いてほしい。 訓練は、三陸沖が震源のマグニチュード9・0の地震を想定した。運転免許が不要な高齢者向け車両の電動小型モビリティー6台を用意し、津波浸水想定区域から約1キロを時速6キロで移動した。市は避難に有効とみて、参加者の声を基に配備の在り方を探る。 さらに、陸上自衛隊とヤマト運輸、佐川急便は孤立集落にヘリで物資を輸送する市内初の訓練に臨んだ。福島高専は交通渋滞を招かない最適な避難行動を見いだすため、石川県などの4高専とともに車や人の動きを調べた。営業走行中の路線バスによる避難、燃料電池車を使った電源供給なども企業の協力で試した。市は今後の検証作業を通じ、参加機関、事業所などとの関係を一層深めるべきだ。
市は震災や豪雨被害を踏まえ、東北大災害科学国際研究所をはじめ幅広い産学機関と防災協定を結んでいる。現在は、協定に基づく取り組みが具体化し始めた段階と言える。市内企業とドローン活用の協定を新たに交わすなど、連携の輪は広がる。能登半島地震の被災地支援に取り組む団体や病院なども市内にある環境を生かし、オールいわきの体制づくりを求めたい。 市などの訓練に参加する市民は限られ、非常時の対応を地域全体にどう浸透させるかが課題だ。市は総合防災訓練の動画を交流サイト(SNS)で発信するとしている。できるだけ多くの人々に見てもらう工夫は欠かせない。 災禍の深手を知る市の防災がさらに進化すれば、県内外のモデルにもなり得る。市内で今月始動した国連の人材育成拠点は、災害リスクの軽減を教育テーマの一つに掲げる。運営を担う市や昌平黌(東日本国際大)は、いわきならではの知見を若い世代に伝える研修プログラムを練ってもらいたい。(渡部育夫)