持続可能性を追求する新鋭マイクロ“ブルスティルリー(醸造所兼蒸溜所)”(インヴァネス)【公共交通機関で簡単に行けるスコッチウイスキー蒸溜所探訪記】
まるでグラフィックノベルの世界
「ウーラヴェイシュト(Uilebheist)」とは、スコットランドのケルト系先住民の言語ゲール語で怪物・妖怪を意味する。これは、スコットランドの伝説の生物たちへのオマージュなのだそうだ。 中に足を踏み入れると、そこは製造現場直結のバー。壁には伝説の生物たちが躍動感あふれるディテールと濃厚なカラーで描かれており、グラフィックノベルの世界に迷い込んだような錯覚を覚える。 ゾクゾクするようなこれらのアートワークは、メタリカやレッドツェッペリンなどのアルバムジャケットを手掛けたオーストラリア人イラストレーター、ケン・テイラーによるもの。ブルスティルリーの中だけでなく、公式ホームページや商品ラベルにもふんだんに使われている。
模範的な低炭素酒造施設
エラスムス夫妻は、「質の高いクラフトビールとウイスキーを環境に配慮した方法で造る」という大志を20年以上前から抱いていた。それを具現化するウーラヴェイシュトは、オペレーションのオール電化をはじめとする数々の取り組みにより、模範的な低炭素酒造施設と評されている。 例えば、ビールとウイスキーの製造に欠かせない熱源は、化石燃料で稼働するボイラーで発生させた蒸気が一般的だが、ここでは高効率の電気ボイラーとコイルヒーターが使われている。 そして、太陽光パネル、水源式ヒートポンプ、紫外線浄水器からなるクリーンエネルギーソリューションで、酒造現場のみならず、隣接する同社経営ホテルの電力、暖房と給湯、飲料水をまかなっている。屋根に設置された太陽光パネルで使用電力のすべてをカバーすることはできないが、不足分は再生可能エネルギー由来の電力供給元から購入しているという。 さらに、主原料のモルト(大麦を発芽させた麦芽)は100%地元産。同じインヴァネス市内にある大手モルティング(製麦)業者の工場から仕入れているため、原料の輸送に伴う炭素排出量も低く抑えることができるのだ。
カスタム仕様の酒造設備
ぴっかぴかの酒造設備は、ドイツの名高い酒造設備メーカー、カスパー・シュルツ社製で、ウーラヴェイシュトのために設計されたカスタム仕様。 日本でいう2階の向かって右側にモルトミル(麦芽粉砕機)と、銅製のマッシュタン(糖化槽)、ラウタータン(麦汁と穀物を分離する槽)、ワールプール(ホップかすとビールを分離する装置)からなるブルーハウス(醸造設備)があり、ウイスキー蒸溜設備はその左側にある。モルトミルとブルーハウスはビールとウイスキーの両方の製造に使われる。 ウイスキーにはアルコール生産能力の高いウイスキー酵母を使うのが一般的だが、ここでは異なる菌株の交差汚染を避けるため、ビールにもウイスキーにもビール酵母を使用している。ビール酵母はウイスキー造りにも適しているが、逆にウイスキー酵母では好ましい風味のビールは造れないそうだ。 下の階には、温水タンク、冷水タンク、熱交換器やステンレス製のウォッシュバック(発酵槽)、ビールの発酵タンクや最終調整タンクがある。