60代から一人暮らし。築50年のマンションを「終の棲家」へリノベした建築家のアイデア
三角形の意匠がポイント。デザイン面にも機能面にもメリットを生んだアイデア
プランニングはとてもシンプルでありつつ、住まいのディテールは配慮にあふれています。「玄関の三和土(たたき)が狭くて、ゲストが多いと靴が置けない」と嘆いていたお母さまの発言から、山村さんは三角形の三和土を発想。そのモチーフはさまざまなところに使われることになります。例えば、壁面収納とキッチンカウンターの一部が三角形に飛び出していますが、これによって大きな物が入り、収納量を確保するためのアイデアでもあるのです。 収納扉の色はライトグレーを選択。その理由について、「白だとコントラストが強くなってしまう」とナタリアさん。「ここは南側から光が柔らかく入り、冬は室内奥まで差し込みます。ライトグレーは光の広がり方もきれいで、空間全体を優しい印象にしたかった」と説明します。取っ手など直接肌が触れる場所にはナラ材を。これも三角形のモチーフですが、さりげなく部屋ごとにデザインを変えました。
穏やかな日常のなかに、新鮮さを感じられる住まい
「飛び出た収納もユニークで、暮らしながらおもしろいなと感じています。ライトグレーが背景なので、カラフルな食器や華やかなクッションを置いてもよさそうですね」とお母さま。 動線など長年親しんできた使いやすさは踏襲しつつ、より暮らしが楽しくなる創意工夫をディテールにちりばめる――。68㎡という比較的コンパクトな面積のなかに、日常のささやかな発見や喜びが満ちあふれているこの住まいは、精神的充足をもたらす真のラグジュアリー空間となりました。