娘の進路を狭めるのは親の偏見!? 「女の子は数学が苦手」は本当か #性のギモン
女性が生涯働くことが当たり前となった時代の、進路の考え方
STEM分野で女性が少ないことから、娘が数学・物理・工学への進学を考えるなかで、「親が、『就職先あるの?』と先回りして心配の言葉をかけるケースも少なくない」と横山さんはいう。 そうなると、あとは想像に難くない。親を心配させてはいけないと、娘は理系の中でも薬学や看護など女性が多い分野を選ぶようになる。
「女性が働き続けることが当たり前となった時代、誰かの顔色をうかがうのではなく、自分の好きな仕事を選んで、生涯それをできることが幸せなことじゃないかと思います。カブリ数物連携宇宙特任研究機構に設置されているデータ駆動型探究センターのリーダーであるジア・リウ准教授は、ビジネスの学科を出たあとに物理の道へ進み、今では世界的な天文学者。私も理系の学部を出て今は文系の学者です。人生はいろんな寄り道をするのもあり。そして最初から好きなことを見つけて理系に進学できるのならば、それは素晴らしいこと。親は自分の安心のために進路を押しつけるのではなく、子どもを見守り続けるというスタンスが大切ではないかと思います」 理系女性を取り巻く環境を変えていくには、「親の意識を変えていくと同時に社会全体のジェンダー観のアップデートが不可欠」と横山さんは続ける。 「親というのは社会の一員なので、やはり企業や大学が変わらなければ親のジェンダー観が変わることはあり得ません。大学においては女性理事が歴代でひとりもいない大学は少なくないですが、女性がいないなかで『STEM分野で女性を増やす』という議論がなされても、女性が学びやすい環境が実現できるとは考えにくい」
近年、理工系の大学では男女比率を是正するため「女子枠」を設置する動きも盛んだが、マイノリティーに下駄を履かせるようなアプローチになっていることにも、疑問を投げかける。 「文科省からの通達により、各大学が女子生徒が希望しやすいように、真剣に取り組み始めていることは、素晴らしいと思います。一方で、共学の大学においての“女子枠・女性枠”は男性差別という批判を呼ぶし、何より女性の理系的な能力を信じておらず、女性に対しても差別的であると思います」 横山さんは、こうしたアプローチが「女性に理系的な能力がないという誤った差別」を助長し、本人たちにも“女子枠で入った”というスティグマを植えつけ、能力発揮の障害になるのではないかと懸念する。 「代替案がない中での苦しいアクションではありますが、ジェンダー平等が低い日本ならではの対策ではないかと心配です。社会全体のジェンダー平等を上げて、個々人の人権が尊重される社会をつくること、そして何より、女子生徒に理工系に興味をもってもらうためには中学生のときからの対策が必要ではないでしょうか」