電車の中で心臓が止まった…性別関係なく「ためらわず助けてほしい」 女性ライターが体験したこと
69万台のAED でも使用率は4%にとどまる
九死に一生を得た熊本さんは、医療ライターとしてAEDの使用を呼びかける記事も書いています。 AEDは、2024年7月に市民も使えるようになってから20年をむかえました。 日本には推計69万台のAEDがありますが、実際に目の前で人が倒れて使われたのは4%にとどまっています。 熊本さんは「心臓が止まってしまうのは一刻を争う状況。AEDがいくらたくさんあっても、使う人がいないと何の意味もないんです」と訴えます。 最初に119番してくれた女性に連絡をとり、会って感謝を伝えたところ、女性は「目の前で人が倒れたら、誰でも同じことをすると思います」と話したといいます。そんな人たちの迅速なアクションのおかげで命が助かった――。そう感じたそうです。
性別も年齢も関係なく、助けられるように
たびたびSNSでは、女性にAEDを使うことに「服を脱がせるのはセクハラにあたる」といった誤った言説が話題になります。男子生徒よりも女子生徒への使用率が低いといった高校現場の調査(2019年)もあります。 熊本さんの場合は、4人ほどの駅員が心肺蘇生にあたって、そのなかにはジェンダー配慮から女性駅員も配備されていました。心臓マッサージなど救命処置の現場は、迅速にブルーシートで周囲から目隠しする対応がされていました。 熊本さんは「そういえばあの日に着ていたカットソーがないな、とだいぶたってから気づいたんです。妹に聞くと『裁断されていたよ』と言われました。AEDのパッドを貼るために一刻を争う状況を想像し、その適切な判断に改めて感服した」と言います。 「命が助かることに比べたら、すべては些細なこと。1分1秒の違いが命を左右します。目の前で誰かが倒れたときは、性別も年齢も関係なく、条件反射的に動いて助けられるように自分もありたいと思っています」と話します。
連絡先や病状を記したメモ入りの「救急ポーチ」
ひとり暮らしの熊本さんは、自身が倒れてからご近所づきあいを見直し、マンションの理事会に参加し、地域とつながるためにいろいろなコミュニティにも加わるようになったそうです。 「やっぱり遠くの親戚より近くの他人。お互いに助け合っています。あとは、自宅近くのAEDの場所はチェックしていますね」 高次脳機能障害の影響が残り、仕事への復帰の際は不安ばかりだったといいますが、積極的に自身の状況を共有したところ、「リハビリのため」と仕事を発注してくれる取引先もいたといいます。 また、倒れた時に「スマホのロック」で情報が得られなかったことから、連絡先や自身の病状などがすぐに分かるようなメモが入った「救急ポーチ」を持ち歩くようになりました。 また、「スマホはロックを解除しなくても見られる緊急情報を登録している」そうです。 退院して自宅に戻ってから2カ月後、薬をのんでも胸の痛みが消えずに救急車を呼んだ時、救急隊員にポーチのありかを知らせたところ、かかりつけの病院に連絡してくれ、スムーズな搬送につながったそうです。 「救急車を呼ぶ状態では思うようにしゃべれなくなっていました。こういうときに俯瞰で情報を伝えられるのはメモ書きが最強ベースだと、と実感した出来事です」