電車の中で心臓が止まった…性別関係なく「ためらわず助けてほしい」 女性ライターが体験したこと
まさか自分の心臓が止まってしまうなんて――。5年前、山手線の車内で倒れた医療ライターの熊本美加さんは、乗客や駅員たちの救命処置のおかげで九死に一生を得ました。「心臓が止まるというのは一刻を争う状況。性別関係なく、ためらいなくAED(自動体外式除細動器)を使って助けてほしい」と呼びかけています。(withnews編集部・水野梓/河原夏季) 【画像】AEDいざというとき使えますか? 救急の現場でまずやること
座席からドサッと倒れ込み…心停止
「そのあたりの記憶はごっそりないんです。『無』という感じですね」 5年前の11月19日、仕事に向かおうと乗っていた山手線で突然倒れた、都内在住の医療ライター・熊本美加さん(57)は、当時をそう振り返ります。 電車の座席から前向きにドサッと倒れ込んだ熊本さん。向かいに座っていた会社員の女性がすぐに119番をしてくれましたが、このとき熊本さんの心臓は止まっていました。 後から助けてくれた人たちの話を聞いて整理していくと、自分が危機的な状況に陥っていたことが分かったそうです。
2週間ほど前から胸の痛み「更年期症状かな」
「胸が苦しいな」という予兆とみられる症状は、2週間ほど前からあったそうです。 朝ドラ「おしん」の再放送を見ている早朝の時間帯に、胸の中央がじわじわっと痛くて苦しくなり、10分ほど横になっているとおさまることがありました。 「心臓の痛みだとは思いませんでした。仕事の疲れか、更年期症状かな、と思って、医療ライターにもかかわらず、病院を受診することはなく放置したのです」 「まさか、それが心臓停止に至る予兆とは思いもしませんでした。後から取材して、心臓に何か問題があるときは、ネクタイをしめた周辺の『ネクタイゾーン』や、左の腕や奥歯にも痛みが広がることがあると知りました」
AEDを4回作動 懸命な心臓マッサージで
乗客のひとりがSOSボタンを押して電車内の状況を伝えてくれたため、次に到着した浜松町駅で待機していた駅員たちが、熊本さんを駅のホームに運び出しました。 すぐにAEDのパッドを貼って4回作動させましたが、熊本さんの病状が重症だったため、心拍は戻りませんでした。 倒れてから20分後に救急隊が到着するまで、駅員たちが代わる代わる心臓マッサージを続けてくれたといいます。 都内の救命救急センターに運ばれて人工心肺につながれ、生死の境をさまよった熊本さん。診断は「冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症」という心臓の血管が狭くなる病気でした。 しかし、奇跡的に意識が戻って家族が喜んだのもつかの間、心停止の間に脳への酸素が滞った影響で高次脳機能障害となり、人格が変わっていたそうです。 「当初は『何で入院させられているんだ』という怒りと恐怖でいっぱいでした。自分の状況がつかめるようになったのは、リハビリ病院に移った後半ぐらいでした」と話します。 日常生活が送れるほどまで回復し、熊本さんが自宅に戻ったのは倒れてからおよそ70日後のことでした。