南北会談宣言 朝鮮戦争の「終戦」が日本にもたらすもの
南北が日本に対し共闘?
また、金正恩委員長と文大統領の異様なほどの接近を見ると、この「戦争行為だったので仕方なかった。この度をもって清算しましょう」という考え方をもって、北朝鮮と韓国が日本に共闘してくる可能性が高いように思われます。 同じ図式を慰安婦や徴用労働者に当てはめることが可能だからです。 日本と韓国は、慰安婦や徴用労働者の問題を含め、「日韓請求権」並びに「経済協力協定」(1965年)によって解決しています。しかし、北朝鮮との間には、こうした取り決めはありません。 朝鮮戦争が「終戦」すれば、北朝鮮との間で同様の取り決めが俎上に上るでしょう。文大統領は、この問題で北朝鮮と共同歩調を取り、日本に対して慰安婦や徴用労働者問題を蒸し返してくる可能性が高いと思われます。 文大統領が、実際に日本から更なる賠償をせしめることができるかどうかは不透明です。しかし、この問題に関しては、文大統領は、大統領就任前の公約を果たし切れていない状態であるため、北朝鮮と共同歩調をとることで日本に圧力をかけることで、支持率の上昇回復を図ることができるでしょう。 「終戦」が拉致被害者の開放につながると考えるもう一つの理由は、最近になって急にトランプ大統領がこの問題に関与し始めたことです。自身が発言するのみならず、拉致被害者家族と面談するなどしています。 北朝鮮にとって、もっとも重要な交渉相手は韓国ではなくアメリカです。アメリカは、現在米韓首脳会談の準備を進めていますが、その作業の一環で、国務長官就任前のポンペオ氏(当時CIA長官)が北朝鮮を訪問し、金正恩委員長と会談しています。その中で、拉致問題を進展させられるという情報があったのだと思われます。 トランプ大統領は、自身の成果として誇ることができる目途が立っているため、拉致問題に対する関与を急速に強めているのでしょう。 「終戦」は在韓米軍の撤退と拉致被害者の解放をもたらす可能性が高いと考えられます。しかし、非核化が本当に進展するのかなど、今後の交渉による部分が非常に多いことは間違いありません。当分、この問題から目を離すことはできないでしょう。
------------------------------- ■数多久遠(あまた・くおん) ミリタリー小説作家、軍事評論家。元航空自衛隊幹部。自衛官として勤務中は、ミサイル防衛や作戦計画の策定に携わる。その頃から小説を書き始め、退官後に執筆した『黎明の笛』セルフパブリッシングで話題になったことから、作家としてデビュー。最新刊は、北朝鮮危機における陸上自衛隊の活躍を描いた『半島へ 陸自山岳連隊』。他の著書に、『黎明の笛』、『深淵の覇者』(全て祥伝社)がある