南北会談宣言 朝鮮戦争の「終戦」が日本にもたらすもの
●拉致被害者の解放
また「終戦」は、拉致被害者の解放をもたらす可能性が高いと言えます。「終戦」が、北朝鮮にとっての拉致被害者解放の障害を、相当程度取り去るからです。 北朝鮮は、拉致被害者を工作活動に関与させてきました。田口八重子さんが、大韓航空機爆破事件(1987年)の実行犯、金賢姫(キム・ヒョンヒ)元北朝鮮工作員の教育係だったことは有名です。 もし拉致被害者を解放すれば、それらの実態が白日の下に晒されると共に、国際的な非難を受けることが避けられません。しかし北朝鮮の立場としては、日本は朝鮮戦争の当事国ではないとしてもアメリカを支援していることは間違いなく、中立国ではなく敵対国となっています。 拉致は許されることではありませんが、北朝鮮とすれば、戦争行為の一環として行ったのだと言うことができます。そして、そのレトリックを使うのであれば、戦争が終わったのならば、解放することが当然となるわけです。 日本側が、戦争行為の一環といった主張に殊更反論をせずに受け入れてやれば、北朝鮮が拉致被害者を解放する言い訳が立つ、言い換えれば北朝鮮の面目が立つのです。 こうした思惑は、金正恩委員長と文大統領にもあると思われます。文大統領は、安倍首相との電話会談の中で、拉致問題の解決を金正恩に訴えたと伝えています。その一方で、文大統領は、韓国の拉致被害者に関しては、金正恩に訴えていません。 北朝鮮と韓国の間では、拉致被害者を返還するとなれば、捕虜の返還と同様に、当然相互で行わなければならないことになるでしょう。北朝鮮は、脱北者の多くが、韓国による拉致だと主張しています。脱北者の多くは、経済的な理由や政治的な理由による自発的な脱北者ですが、確かに一部は拉致に近い状態ではないかと思われる脱北者も存在します。韓国の情報機関「韓国中央情報部」(KCIA)が、東京で金大中拉致事件を起こしたように、韓国も相当に荒っぽい手段は取る国だからです。 このため、韓国は「終戦」を理由とした韓国の拉致被害者開放を強く主張できません。しかし、日本の拉致被害者の開放であれば、相互に交換という形にはなりません。