【電通の勉強会で生まれた考え方】「会社のエレベーターの待ち時間が長い!」社員の不満をどう解決するか?「インサイト思考」から導き出される画期的なアイデア
ビジネスには課題解決がつきものだ。課題を解決するためには様々なフレームワークがあるが、“ゴール”に一気に近づく考え方が「インサイト思考」だという。これは「試行錯誤」的な考え方と対をなすもので、解決への見通しへの近道となりうる。 【イラスト】「インサイト学習」と「試行錯誤学習」の違いとは?
広告会社最大手の電通シニア・マーケティング・ディレクターの佐藤真木氏、電通マーケティング・コンサルタントの阿佐見綾香氏の両氏が、電通社内で広く使われている「インサイト思考」を紹介する共著『センスのよい考えには、「型」がある』(サンマーク出版)より一部抜粋・再構成して、その考え方のエッセンスをお届けする。
インサイトの価値は「状況に隠れている本質を捉えて、一気に問題を解決すること」
インサイトを「人を動かす隠れたホンネ」と定義すると、その一番特徴的なメリットは、一気に問題解決に到達できることです。まどろっこしいかもしれませんが、心理学の実験について話したいと思います。 「インサイト」は、「洞察」と直訳されますが、明確な日本語訳は定まっていません。 歴史的には、約100年前にヨーロッパで行なわれたチンパンジーと人間との共通性を研究する認知心理学の実験の中で生まれた「インサイト学習」という概念を「洞察学習」と訳したことから、「インサイト」=「洞察」と訳されるようになり、学問の世界を中心に使われるようになりました。 語源をたどると「インサイト」は、英語で「insight」です。分解すると「in=内側」+「sight=見る」=「insight=内側を見る」、つまり実験で、チンパンジーにも人間のような「内側を見る≒心」があるのかどうかを探るために、「インサイト」という言葉が使われ始めたのです。
インサイトの反対のアプローチは「試行錯誤」
「インサイト」に関する学術的な研究は意外と少ないのですが、今から100年ほど前にエストニア出身のドイツ人心理学者ヴォルフガング・ケーラーが面白い実験をしています。 お腹を空かせたチンパンジーに対して、バナナを天井から吊るしました。でも、バナナはチンパンジーがジャンプしても届かない高さにあります。部屋には木箱を3つ用意しました。すると、チンパンジーは、3つの箱を積み上げてその上に乗って、見事に一発でバナナを取ることができました。ケーラーはこれを「インサイト学習」と呼びました。 ケーラーは、「インサイト学習」とは「問題解決において、試行錯誤的に解決手段を探していくのではなく、諸情報の統合によって一気に解決の見通しを立てること」と定義しています(*注:『類人猿の知恵試験』(ケーラー著 宮孝一訳 岩波書店)、『欲望とインサイト』(坂井直樹・四方宏明共著 スピーディ)を元に筆者まとめ)。 それでは、「インサイト学習」の反対とは何でしょうか? それは、アメリカの心理学者、エドワード・ソーンダイクが提唱した「試行錯誤学習」というモデルだと言えるのではないかと、筆者は考えています。 ソーンダイクは次のような実験をしました。お腹を空かせた猫を柵のついた箱に入れます。柵の外には餌があります。箱の中には紐がぶら下がっており、紐を引くと柵が開く仕組みになっています。 すると、最初、猫は餌を取ろうとするが、柵があるのでうまくいきません。何度か餌を取ろうと繰り返して、何かの拍子に「偶然」によって「たまたま」紐を引くと、柵が開いて餌を取ることができました。この「たまたまの偶然的試行」を繰り返すことで、猫は「試行錯誤」的に問題解決をし、成功までにかかる時間を少しずつ短縮させていきます。 猫の一連のこの試行には、チンパンジーの「問題解決において、諸情報の統合によって一気に解決の見通しを立てる」ような「インサイト学習」は見られませんでした。