バスドライバーを疲れさせる「プルプル運転」とは何か? 自動運転時代の落とし穴! 過剰な安全対策が招く危険とは
自動運転時代に旧式インターフェース
同様に、ハンドル操作についても、手を宙に浮かせた状態は問題が多い。緊急時のステアリング操作には、適度な力加減と正確な舵角制御が必要となる。 しかし、すでに疲労している腕で、突然の危険に適切に対応できるだろうか。膝の上などに自然に手を置いておき、必要に応じて素早くハンドルを握る方が、より確実な対応が可能ではないだろうか。 より本質的な問題は、自動運転を行おうとしているのに、ハンドルやペダルなどの 「人間が運転するインターフェース」 をそのまま使おうとしていることにあるのかもしれない。ハンドルやペダルという操作系は、常時人間が運転することを前提に設計されている。 もっといえば、これらの操作系は、パワーステアリングやブレーキブースターが存在しなかった時代に、人間の限られた筋力でも車両をコントロールできるように考えられたインターフェースだ。 操作のほとんどが電気信号に変換され、コンピューターを介して制御されている時代に、まして自動運転が始まろうとする時代に、いつまでも旧式のインターフェースを使い続けるのは無理があるのかもしれない。
ドライバーの負担を減らすインターフェース
航空業界では、すでにこの課題に対する解決策を見いだしている。 現代の多くの旅客機では、従来の操縦かんに代わってサイドスティックが採用されている。これにより、パイロットはより自然な姿勢で操縦が可能となり、自動運航時の監視業務との両立も容易になった。 自動車にどのようなインターフェースが適しているかは議論の余地があるが、ドライバーの役割が「運転」から 「監視」 に変わりつつあるのだから、インターフェースの側もこれに応じた最適化を行わなければならないだろう。 自動運転技術の導入は、人間の負担を軽減し、より安全で快適な移動を実現するためのものである。しかし、現状の運用では、かえってドライバーに ・不自然な緊張 ・疲労 を強いており、本末転倒である。安全性は妥協できない要素だが、ドライバーが適度にリラックスした状態で、確実に監視業務を遂行できる環境を整えることが負担軽減にも安全にもつながるのではないだろうか。 当面は現行の車両のインターフェースを使い続けざるを得ないが、そのなかでもより合理的な運用は可能なはずだ。交通事故の判例では、人間に求められる反応時間を 「0.75~0.8秒」 とすることが多いが、これは手や足を自然な位置に置いた状態でも実現できる反応時間である。だからドライバーは不自然な姿勢で手足をプルプルさせなくてもよいはずだ。
過剰な安全対策が招くリスク
プルプル運転は、より高いレベルの自動運転へと移行していくための過渡期の措置であるとは思うが、過剰な安全対策によってかえってリスクが高まる状況は好ましくない。 現状の矛盾を解決するためにも、今後より高度な自動化を進めるにあたっても、 ・人間工学的な視点 ・自動運転技術の本質的な目的を見失わない姿勢 が重要だと思うのだがいかがだろうか。
島崎敢(心理学者)