東洋エンジニアリング、「生産性6倍」への挑戦とDX推進部長の葛藤
● DX推進部長、 「2025年度までに生産性6倍」を打ち出す こうして、2019年7月にDXoT(Digital Transformation of TOYO)推進部長に就任した瀬尾さん。最初に取り組んだのは、ビジョンの策定だった。鉄は熱いうちに打てとばかりに1カ月で練り上げたのが、「2025年度までに生産性6倍」という目標だった。粗利を3倍にし、投入工数を半分にすることで、6倍の生産性向上を目指すという計算だ。 「これまでの延長線上にある改善に留まりたくない一方で、夢だけ追いかけても仕方がない。そこで、イノベーションへの布石として、社内的にも分かりやすく『生産性6倍』というスローガンを掲げました。繰り返し発信するうちに、社長も社内外で『生産性6倍』をアピールしてくれるようになりました。今では決算発表や総合報告書にも書かれるほど、ビジョンとして定着しています」(瀬尾さん) ● 建設業界の生産性はなぜ上がらないのか そもそも、建設業界はなぜ生産性が上がらないのか。CDOの川内陽志生さんは、3つの課題を挙げる。 第一に、保守的な文化だ。「今まで通りきちんとやる」という意識が強い。特に紙文化は根深く、設計図面を紙で受け渡し、現場で確認し、また紙で戻すという「紙のリレー」が日常的に行われている。 第二に、プロジェクトの複雑さだ。「鉄骨の柱を一本立てるのにも、Aさんが図面を揃え、Bさんが鉄骨の材料を購入し、さらにCさんが実際に製作することで、やっと立てることができる」と川内さんは説明する。プラントではこうした要素が100万以上に及び、緻密な工程管理が求められる。 第三に、グローバル調達の難しさがある。「この機械は中国から、この機械はイタリアからと、サプライチェーンが複雑化しています。『遅れゼロ』と目標を立てても、蓋を開けてみると遅延が頻発している」という。