クルマの贅沢をすべて凝縮!マセラティ「グランカブリオ」に宿る不変の価値
■スポーティだけれどエレガンス スポーティなオープンというと、マツダ「ロードスター」が身近な存在であるが、グランカブリオとは成り立ちが異なる。 グランカブリオは4人乗りで、耐候性のある厚めの幌を備えている。カブリオレとは、屋根を閉じればクーペのような快適性を持つクルマのことをいう。つまり、グランカブリオは、スポーティだけれど、よりエレガンスに重点を置いたモデルなのだ。 私にとっては、そこが大きな魅力に映る。日本でも、BMW「4シリーズ カブリオレ」やメルセデス・ベンツ「CLEカブリオレ」といった、クーペをベースとしたオープンモデルがあり、どれも独自の魅力を感じさせる。
カブリオレのよさは、ライフスタイルを感じさせる楽しさにある。フェラーリやランボルギーニといったスーパースポーツのスパイダー仕様がプロのアスリートだとすると、山登りやフィッシング、キャンプを好む趣味人のような趣き、といえばいいだろうか。私は、路上でカブリオレを見ると、そんなことを連想する。 マセラティのグランカブリオレは、心躍るような走行感覚を持つ一方で、優雅さを印象づける。私は秋晴れの箱根の道を走ってみて、特段スピードを上げずとも楽しさを味わえた。痛快であるが爽快であるのだ。
マセラティを以前から好む人には、戦前の同社のスポーツカーを連想させるボディデザイン(胴体と独立したフェンダーがあるようなイメージ)をはじめ、路面に擦りそうなほど低いノーズ、素材や色づかいで濃厚と表現したくなるインテリアが、グランカブリオの魅力と映るだろう。 自動車の用語では“歴史的引用”などというが、1914年に創業して戦前はレース、戦後は特にアメリカの富裕層向けにスポーツカーを手がけてきたマセラティだけに、ボディのいろいろなところに、引用元を連想させる要素をもりこんでいる。
それに、長い時間をかけて、クルマ好きの頭の中に染みこんだイメージもあるだろう。たとえば、私なら学生時代に読んだアメリカの作家、トム・ウルフの小説『ザ・ライト・スタッフ』がある。 宇宙飛行のマーキュリー計画に取材したノンフィクションが、この作品。宇宙飛行士のウォリー・シラーが、フロリダ州のケープカラベラルにある、レンガの硬く乾いたココビーチの砂浜で、「マセラティ(3500GT)を乗りまわすのを楽しみにしていた」という記述がある。「お金があって運転が好きな人が乗るクルマなんだなぁ」と、印象深かった。