誰もが発信できる時代だからこそ「校正」が必要?… SNSをやる上で身につけたい「校正」能力とは
なぜ今の時代、「校正」が注目されるのか――。『kotoba』の人気連載「ことばの番人」がこのほど単行本に。その著者・髙橋秀実氏と、校正者で『文にあたる』の著者・牟田都子氏が、校正に関する思考、技術、エピソードなどについて語り合った。『kotoba』2025年冬号より、一部抜粋・再編集してお届けする。 【画像】11月13日に逝去したノンフィクション作家の髙橋秀実氏
書き手を潰さないのが校正者?
髙橋秀実(以下、髙橋) (牟田の手元にある付箋がたくさんついた本を指差して)私の新著を読んでいただいたとのこと。初対面にもかかわらず、いきなりお聞きしてしまうんですが、誤植はなかったですか?(笑) 牟田都子(以下、牟田) この仕事をしていると、著者や編集者とお目にかかったときの第一声がそれなんですよね。(校正として)お金を貰っていないときは、誤字脱字は拾いませんって言うようにしています(笑)。我々は仕事でゲラを読むのと「読者読み」を区別しています。 夫も同業者なんですが、読者読みだと(誤字脱字に)気がつかないよね、なんて話しています。 髙橋 この『ことばの番人』では「校正」の重要性を書いています。誤字脱字に気をつけろと言いながら、間違っている可能性もある。 そこで巻末の著者プロフィールの後に「誤字脱字を見つけられた方は、お手数ですが、集英社インターナショナルHPのお問合せフォームまでお知らせいただけますと幸いです」という一文を入れています。 牟田 誤字脱字があるかどうかというのは、校正(※)について書くときの一番の難関ですよね(笑)。 髙橋 私の文章は、まず妻が読んで、気がついたところを指摘してくれます。最初の校正ですね。彼女も20代のとき、原稿を書いていました。ワープロが普及する前、まだ手書きの時代です。校正ごっこじゃないんですが、お互いの原稿を読み合うということをやっていました。 私は彼女の原稿を読んで、「書き出しで引き込まないと」「展開が面白くない」「オチがついていない」、しまいには「取材が足りない」と言って赤字を入れた。そうしたら彼女は「じゃあ、あなたが書いて!」と激昂してしまって。 牟田 お察しします(笑)。 髙橋 私の指摘では、全面書き直しということになります。彼女の書き味を無視している。一方、彼女は基本、私の原稿を否定したりしません。面白いけど、こうしたほうがより面白いかもと、柔らかく指摘してくれるんです。彼女のほうが校正者の資質がある。絶対に書き手を潰さないのが校正者かもしれません。 牟田 校正の技術というのは、誤字脱字を見落とさない、漢字の形の違いに気がつく、言葉に詳しいという以上に、どこまで踏み込むか、かもしれません。ゲラに疑問があった場合、どこまで聞くのか、どういう聞き方をするのか。髙橋さんの言葉をお借りするならば、書き手を潰さないさじ加減、塩梅も技術の一つと言えるでしょうか。