「愛される」ロボットって、どんなデザイン? 人の「なんとなく好き」を分析する【イマドキの大学ゼミ】
「なんとなく好き」の感覚を分析
勝藤さんの研究では、デザインコンセプトを決定する前に、まず研究室のメンバーに意識調査を行いました。ディスカッション形式の丁寧なヒアリングによって、勝藤さんはデザインコンセプトに「頼りがい」という要素を盛り込むアイデアを得ました。さらに最終デザインを絞る際にも、10人ほどの学生・院生による評価を実施。6種類のサンプル画像を見せて、色や形の好みを細かく調査しました。「清潔感」「好きか嫌いか」など、キーワードを設定して5段階評価で回答を得たほか、印象を自由に語ってもらうインタビューも行いました。「なんとなく好き」といった感覚の理由を分析して、デザインに落とし込んだのです。 「協力してくれた仲間からは、僕が気に入っていたものとは違うデザインのほうがいいという意見が複数出ました。残念な気持ちを押し込めてデザインと向き合っていると、『確かに、これがいいかも』と思えてきたのです。一人だけで考えていると、やはり偏りが生じるんだなと感じました」 勝藤さんはさらに、橋田教授から貴重なアドバイスをもらいました。 「研究のゴールはものの完成ではなく、それをまた人に評価してもらって分析し、論文にまとめることです。そのためには、実際にロボットたちが動いているところを見せることが不可欠だと思いました。でも僕のフードデリバリーロボットは大きいので、実物をいくつも作って走らせることは難しい。どうしたらいいか先生に相談すると、『CG動画を作ってみたら?』というアドバイスをもらったのです」
愛されるものを生み出したい
それまで勝藤さんは、授業で3Dモデリングなどには取り組んでいましたが、アニメーション動画を作ったことはありませんでした。論文の提出期限まで、残された時間はわずか1カ月。時間との闘いに「プレッシャーで半泣きになった」と言いますが、触れたことのない複数のソフトを駆使し、苦労の末に動画を完成させました。画面の中で、勝藤さんのロボットたちはオフィス街を元気に駆け巡ります。狭いエントランスやエレベーターにも対応したサイズ設定や、かがまずに荷物の出し入れができる開閉機構など、デザインの利点をわかりやすく表現することにも成功しました。 「ソフトの使い方を覚えたことも収穫でした。でもそれ以上に自分の成長を感じたのは、新たなスキルの習得にも前向きになったことです。今後の目標は、人とものがもっと近づいていくような、人とものの間をつなぐデザインを考えることです。必ずしも役に立つロボットである必要はなく、役に立たなくても愛されるものを生み出していけたらと思います」 この研究室で求められるのは、単なるものづくりの能力ではありません。そのコンセプトや発想を明確にし、それを他者がどう感じるかを掘り下げて、より魅力的なデザインに生かすことです。その結果としてこの研究室で生まれるものは、作り手と使い手を双方向につなぐ媒体ともいえるでしょう。学生たちは、デザインを通じて「ものを使う人」とコミュニケーションし、その効果を測ることを学びます。勝藤さんはこう話します。 「モーターを制御したり正確な回路を作ったりすることは、作り手の重要な役割です。でもそれだけでは、使い手が手にした時の思いと齟齬が生じてしまうかもしれません。単なる産業機械にとどまらず、使う人の行動や感情まで考えたものづくりをしたいと考えています」
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