「財政赤字は問題なし」…アメリカが信じる先進的な「積極財政」のパラダイムシフト
「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」 そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では「新自由主義の権化」に経済学を学び、20年以上経済のリアルを追いかけてきた記者が、海外の著名なパイオニアたちと共に資本主義の「教義」を問い直した『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井手壮平著)より抜粋して、「現実的な方策」をお届けする。 『世界の賢人と語る「資本主義の先」』連載第21回 『「ザイム真理教」と呼ばれても…エリート官僚たちが国民の目の敵になってまで「増税」を続ける「隠されたワケ」』より続く
変わる潮目
積極財政派や拡張財政派と呼ばれる人たちは、これまで多くが長期的には財政健全化の必要性を認めつつも、順番として、経済全体で需要が供給を下回っている状態(経済学的には需給ギャップあるいはGDPギャップがマイナスと表現する)が続く間は、足りない需要は財政支出で補う、つまりは余っているモノやサービス、労働力は、国がお金を出すことで直接、間接に買い取ることを主張してきた。 財政健全化はそうして十分に民間の需要が強くなり、需給ギャップの穴埋めを公的支出に頼らなくてもいい状態を作り出してから進めればいい。また、そのようにして経済自体を強くしてから進めたほうが、「急がば回れ」で近道ではないかというのが伝統的な積極財政派の主張だった。 彼ら積極財政派の多くも、国の財源には限りがあり、税収で足りない分は国債を発行して調達するしかないとの見解を共有する。ただ、国債は何も民間金融機関でなくても、日銀に買わせることもできる。
日本では異端視されるが…
現に日本銀行が国債をどんどん買い上げてきた結果、国債発行残高の半分以上を日銀が保有する状態となっているが、それが(中央銀行が通貨発行権を使って――しばしば「お札を刷って」と比喩的に表現される――政府を直接支える)「財政ファイナンス」だと財政再建派から批判されても、金利は上がっておらず、財務省が数十年来起きると言い続けてきた財政危機などまったく起きていない。現実に起きていることを見れば、毎年巨額の財政赤字を出し続けても、問題など起きないことは明白ではないか――というのが彼らの主張だ。 日本では特に、財務省的ともいうべき主流派がアカデミズムの世界でもメディアでも強い影響力を持っている。当の財務省も(実際の予算編成がどうなっているかはさておき)原理原則としては財政健全化の必要性に関して異論を許さない組織風土があるため、積極財政派は異端視されることが多い。 ただ、海外に目を転じれば、ポール・クルーグマンやジョセフ・スティグリッツなど、ノーベル経済学賞受賞者の中にも積極財政を唱える専門家は一定数いる。 米国経済学会の会員を対象としたアンケートでは、「大きな財政赤字は経済に悪影響を及ぼす」という項目に対し、2000年の調査では40・1パーセントが賛成し、反対は20・2パーセントしかいなかったが、2021年の調査では賛成19・7パーセント、反対38・6パーセントと、賛否が逆転した。少なくとも、最新の知見が集録されていると多くの経済学者が信じているアメリカでは、潮目は変わってきているようだ。 『「日銀は政府の子会社だ...」安倍晋三の発言のウラに隠されていた「衝撃の貨幣理論」』へ続く
井手 壮平