投票率“日本一”の離島、「政治とカネ」の問題どう響く 有権者からは怒りとあきらめの声、政治不信の現在地
北海道の利尻島に、前回衆院選で全国トップの投票率90・33%を記録した利尻富士町がある。過疎化が進む人口約2200人の町は自民党支持が色濃い地域だ。今回の衆院選で最大の争点となっている「政治とカネ」の問題について聞くと、町民の間に怒りとあきらめの声が交錯していた。「今回だけは許せない」「変わるチャンスだけど、なかなかね……」。国会から遠く離れた島で、政治不信の現在地を探った。 【2021年衆院選での投票率上位の自治体】
投票率9割「特別な啓発はしていない」
札幌市内から航空機で約1時間。利尻空港に降り立つと、島の中央に雄大な利尻山(通称・利尻富士)が見えてきた。利尻富士町は島の東半分にあたり、面積は約105平方キロ。漁業と観光に支えられ、京料理のだしなどに使われる「利尻昆布」と、その昆布を食べて育った濃厚な味わいのウニが有名だ。 2009年以降の5回の衆院選で、町の投票率は8割半ばから9割強で推移してきた。前回21年は90・33%で、市町村別の全国1位。全国平均の55・93%と比べると突出した高さだ。なぜなのか。 「特別な啓発をしているわけではありません」。町選挙管理委員会によると、防災無線での呼び掛けや投票所への無料バスの運行などはしているが、他の自治体と大きな違いがあるわけではない。近年は期日前投票が半数近くに上り、買い物のついでなどに投票する人が多いという。担当者は「町民一人一人の投票意識が高いと言うほかありません」と言う。
「声が届いていない」若者の危機感
衆院解散後の10月中旬、町南部の鬼脇地区の作業場で、上田光斗夢(あとむ)さん(30)は乾燥させた昆布の出荷準備に取りかかっていた。漁師の家族と昆布のインターネット販売などを手がける一方、町議会で最も若い新人議員でもある。 「若い世代の声が町政に届いていないのではと思ったのです」。初出馬は21年10月。若者が進学や就職先を求めて島外へ出て行く現状に危機感を覚えた。「本当はそういうキャラクターではないのですが、誰も出ないのなら、自分が先頭に立たないといけないのではないかと勇気を出してみました」 定数9に10人が立候補し、上田さんは242票でトップ当選した。22年12月の定例議会では町内の小中学校のトイレに生理用品を設置することを求めて実現。若者だけでなく、町議に一人もいない女性の視点も大切にしている。 出馬した21年の町議選は衆院選と同じ投票日だった。「自分に票を入れなくてもいいから選挙には行って」。出会う人には必ず投票を呼びかけた。 「この町は日本の端っこで、国会からも遠い。投票率が低いと国の政治家に相手にされなくなってしまうので、皆が投票にこだわっています」。上田さんはそう説明した。 投票率が高い要因について、田村祥三町長(70)は「離島で暮らす厳しさを国会議員に訴えたいという気持ちが一番大きい」と指摘する。 町では働き手不足の問題が、将来への不安を増大させている。少子化と島外への人口流出に歯止めがかからず、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、町の生産年齢人口(15~64歳)は35年に高齢者(65歳以上)の数を下回る。町全体の人口も45年には約1100人に半減する。 田村町長はこうも語った。「投票しない人は我々から見ればもったいないし、どうしてなのかなという思いです」