投票率“日本一”の離島、「政治とカネ」の問題どう響く 有権者からは怒りとあきらめの声、政治不信の現在地
漁協に自民党支部、議員が「根回し」
利尻富士町と稚内市などを結ぶフェリーが発着する「鴛泊(おしどまり)港フェリーターミナル」。その近くに、町の基幹産業を担う「利尻漁業協同組合」の大きな建物がある。 入り口には自民党政治家の看板が立てられていた。漁協内には自民党利尻富士支部もあり、漁協幹部が支部代表を務めている。 漁協の山上辰昭専務理事(60)は「1次産業のことは自民党が一番分かってくれる。武部勤さんの時代からそんなイメージを持っています」と率直に語る。 小泉純一郎政権下の04~06年、自民党幹事長を務めた武部氏は利尻富士町を含む衆院北海道12区を地盤とし、12年に引退した。 小泉氏の「偉大なるイエスマン」を自認した武部氏は09年7月、利尻島に小泉氏を招いたことがある。当時、町では約300人が参加して「歓迎の集い」が開かれ、小泉氏は特産のウニを堪能した。 元町議長で全国離島振興市町村議会議長会の会長を務めた長岡俊裕さん(67)は「国土交通省などに離島振興の陳情に行こうとすると、武部さんが根回しをしてくれた」と振り返る。 町民の高い投票率によってもたらされた多くの票が党有力者の武部氏に投じられ、武部氏側は町にさまざまな便宜をもたらした――そんな構図が浮かぶ。 武部氏は旧民主党が政権交代を果たした09年の衆院選で、初めて小選挙区で敗北し比例復活した。だが当時、利尻富士町では武部氏が旧民主党候補の倍となる約1500票を獲得し、町民の支持は強固だった。
裏金事件で芽生える不信
武部氏の引退後、北海道12区では長男の新(あらた)氏(54)が自民党候補の座を受け継いだ。今回、5期目を目指して立憲民主党新人の川原田英世氏(41)と争う一騎打ちになっている。 「政治とカネ」の問題は有権者にどう響いているのだろうか。 「政治家が裏金を作るなんて最低だ。今まで自民党に投票してきたが、今回も投票するかどうかは考え中だ」。町のホームセンターに買い物に来た漁師の男性(80)は、自民党派閥裏金事件への怒りを口にした。 新氏は旧二階派で、裏金事件には関わっていない。だが、「皆は表立って言わないが、お酒を飲んで話せば裏金問題はよくないという話にはなる」(町幹部)といい、町内でも不信は渦巻いているようだ。 一方、変わらず自民党支持を続けるという声も目立った。 「政党は関係なく武部さんに投票してきたし、今回も投票するつもり。裏金問題はテレビで漠然と知っているけど、そこまで関心はない。これからクリーンな政治をやってくれればいい」(80代女性) 「裏金はよくないけど、投票には関係しない。会社の業績がよくなることを考えて武部さんに入れる」(30代男性) 立憲民主党の支持者はどう見ているのか。 「昔から保守地盤の強いところだし、小さな町では反自民の声は上げづらい。『政治とカネ』の問題がこれだけ報道されても、島の中では投票行動が劇的に変わる様子はありません」 通信業などを営む黒川健一さん(76)はため息交じりに話す。町内で野党を支援してきた「少数派」を自認する。