『宇宙からの脱出』精緻な考証に基づいた傑作SFサスペンス(後編)
※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。 ※前編(https://cinemore.jp/jp/erudition/3726/article_3727_p1.html) 有人宇宙計画で起こりえる様々なトラブルを、その黎明期から正確に予測し、警告を与えてきた作家マーティン・ケイディン。彼の小説を原作とした映画『宇宙からの脱出』は、さらにNASAや航空宇宙関係企業からの最新情報を加えることで、非常にハードかつ予言的な映画となった。1969年の「アポロ11号」成功の後、雨後の筍のように作られた宇宙映画群(*1)の中で、頭一つ抜け出した作品である。
あらすじ④
NASAのプロジェクトリーダーであるキース博士(グレゴリー・ペック)は、救命艇「X-RV」の打ち上げを待っている報道陣の前に現れ、アイアンマン救出計画の中止を知らせる。すると元々宇宙開発に批判的だった記者が、ここぞとばかりに有人宇宙計画そのものを中止させるべく、キースを攻めまくる。最初は黙って聞いていたキースだったが、ついにこらえきれず反論を始めた。 するとそこに気象予報官が割って入り、キースに天気図を見せる。驚いた彼は、急遽記者会見を打ち切ってミッションコントロールへ走って行く。何が起きたのかと戸惑う報道陣たちに、気象予報官は天気図を見せ、「現在ハリケーン自体は風速45mあるが、目の中はゼロだ。そして間もなくここを通過する」と説明した。 ミッションコントロールに戻ったキースは、クルーたちに「GOか、ノーGOか」を問う。空軍システムディレクターは、「タイタンロケットは40mの風にさらされたが、機体に問題はない」と回答。キースは、X-RVのパイロットとして船内で待機していたドハティ(デヴィッド・ジャンセン)に、「プログラムの修正をしている時間はない。全て手動操縦で行け」と命じ、打ち上げを決定する。 しかし航空医官(ジョン・カーター)は、キースにこっそり「到着したころには全員死んでいます」と告げる。キースは「3名は無理でも2名ならどうだ?1名なら助かるか?」と問い、医官は「2名であれば…」と答える。 風速計をにらんでいたキースは、10mまで低下した段階でGOを出した。そして発射台の整備塔が移動を開始するが、それが十分な距離まで離れない内に、X-RVを搭載したタイタン発射の秒読みが強行される(当分の間、この第41番発射台が使用不能になることを意味する)。発射の瞬間には、完全な無風状態になっていた。 (*1)多くは『月面の足跡 アポロ計画のすべて』(69)や、『宇宙0年/アポロ11号・月面に立つ』(69)のように、記録フィルムを適当に編集しただけの、即席ドキュメンタリーが多かった。