フライング・ロータス緊急独占取材 ダンサブルな最新EP、坂本龍一との秘蔵コラボを語る
5曲入りの最新EP『Spirit Box』をサプライズリリースした、フライング・ロータス(Flying Lotus)ことスティーヴン・エリソンの独占取材が実現。この新作は新しいサウンドの序章に過ぎない。「久しぶり過ぎたね」と語る彼の最新モードに迫る。 【フル試聴】フライング・ロータス最新EP『Spirit Box』を聴く
「フライローおじさん」の型破りなハウスサウンド
つい最近、フライング・ロータスはLAの自宅で、デイヴィッド・リンチが描くシュールな世界に長期滞在していた。そこから戻った瞬間に、インスピレーションが彼を襲ったのだ。「『ツイン・ピークス』を一気見したあと、普通は何をするかってことさ」と彼は言う。中には、グミを食べながら『マルホランド・ドライブ』を再生する人もいるかもしれない。しかしながら、スティーヴン・エリソンという名の無限の先見性を持った彼にとっては、スタジオに入る時が来たということだ。 「『ちょっとビートでも作ってみるか』と思って、手に入れたAuto-Tuneのプラグインで遊んでみたんだよね。それが、美しい形で進化したんだ」。 1時間後、彼は今年初頭に単発のシングルとしてリリースされた「Garmonbozia」を完成させた。Garmonbozia(ガーモンボジア)は、リンチの映画やTVシリーズでは、クリームコーンに似た不気味な物質の名前として登場する。フライング・ロータスにとっては、この酩酊を誘うような、R&Bを曲解したようなムードの曲にうってつけのタイトルで、珍しく、「赤い部屋」についての歌詞を彼自身がリードボーカルとして歌い上げている。「そんな意識の流れが訪れる瞬間が、僕にとっては本当に特別なんだ」と彼は言う。「振り返ってみて、『一体何が起きたんだ? すごいものが出来たぞ』ってなるんだよね」。 これは、彼が用意している新しいトリックの序章に過ぎない。「Garmonbozia」は、フライング・ロータスが本日Warp RecordsからリリースしたサプライズEP『Spirit Box』に収録されている5曲のうちの1曲だ。このEPは、2019年の『Flamagra』以来初となる、サウンドトラック以外のソロ・プロジェクトで、話を聞くためにZoomにログインした時、彼はとても興奮している様子だった。「ハッピーだよ」と彼は言った。「本当に久しぶり過ぎたからね」。 最新EPは、エレクトロニック・ミュージック、ジャズ、ファンク、ヒップホップといった、さまざまな音楽が渦巻くフライング・ロータスの長いキャリアの中で手がけてきたものとはまったく異なる、バブリーなハウス・トラック「Ajhussi」で楽しげに幕を開ける。別の新曲「Ingo Swann」も同様にアップビートでダンサブルなエネルギーに満ちている。「もう少しフィジカルなものをやりたいと思ったんだ」と彼は言う。「それに、女性向けのもの、信頼できるヴァイブ・ミュージックもやりたかったんだよね」。 彼はこうしたトラックを、ワシントンD.C.周辺のDJライアン・セルシウスの人気YouTube配信で耳にしたローファイ・ハウスのサウンドや、Overmono、Villager、Cesco、ロス・フロム・フレンズ(フライング・ロータスのレーベル、Brainfeederと契約している)といったアーティストと結びつけている。「最初に始めた頃は、そういう音楽をやる場がなかったんだ」と彼は言う。「でも今は、型破りなハウス――つまり、深夜4時まで出歩く人や、ストーナーのための場所が増えてきたね」。 この一連の流れが、若い世代の火付け役から刺激を受けて、再び火がついたベテランの姿に見えるならそれでも構わないと、「Ajhussi」という少し自虐的なタイトルを選んだ――この単語は、韓国語で中年男性を意味している。「今や僕はフライローおじさんだからさ」と、41歳になったばかりの彼は笑いながら言う。「分かるでしょ? 僕はおじさん期、おじさんの時代に入っているんだよ」。 EPの3曲目「Let Me Cook」には、R&Bの革新者Dawn Richardとフライローの長年の親友、サンダーキャットのベースがフィーチャーされている。まだ実際に会ったことはないが、フライローはRichardの音楽を聴いて親近感を覚えたという。そこで気に入りそうなインストゥルメンタルを彼女に送ったところ、ほぼ完成されたバージョンが送り返されてきたのだそうだ。「彼女のチョイスには本当に驚かされたよ。彼女は本当に、本当に才能のある人だね」。 EPを締めくくるのは、インド人シンガー、Sid Sriramとのコラボレーション「The Lost Girl」。この曲は、『Spirit Box』のためにレコーディングされた最後の曲で、フライング・ロータスの自宅スタジオで数日にわたって行われたセッションから生まれた。「この曲は、今回の作品全体で僕が伝えたかったことを本当によく表現しているんだ」と彼は言う。「女性たちに向けたソウルフルな曲で、少しアップテンポで、動きもあって。とても原始的な感覚を備えているんだ」。