【証言・北方領土】択捉島・元島民 長谷川ヨイさん(1)
―お父さんたちの生業は昆布漁だった? うん、そう。でもね、昆布とりは1人では暮らせない。男でも女でも。だから、誰か連れあいが死ぬでしょ。そうしたら、その人と、この人と、ね、すぐ一緒になる感じで。そうしないと仕事が昆布だから、1人では生活していけない。厳しいんだ、あそこの島は。 私ね、この島にいたときね、1回か2回くらいしかね、沖へ出たことないからね、沖から山をちゃんと見たことがない。だから、引き揚げてきて、墓参とか行ったとき、あの単冠山見たとき、感動して涙出た。すばらしい山だもの。私のふるさと、こんなすてきだったのかって、初めて見た。 入里節って太平洋でも、磯の出るところと出ないところあるの。その3分の1が浅瀬。だから、砂浜で、何にもとれない、船行ったら座礁するような。で、あと3分の2は磯が出るの。オムも出るし、エビもいるし。裸足で行っても、こう手を入れると、ウニが2つも、5つもいるよ。 おいしかった。いや、島で食べたね、カニ。花咲(蟹)。こんな小さいのとらないから、1つの鍋で湯がえるけど、1つ入れたら、もう入らないくらい大きい。こっちのタラバよりもおっきいカニだから、花咲。だから根室に来ても、私、カニ買って食べない。 でね、毛ガニもいるけど、毛ガニは食べない。うん。毛ガニはね、うちの母の言うことには、「あの毛の生えたカニはね、食べられないんだから、毒なんだから、とってきちゃだめなんだよ」って叱られるから、獲らない。「あんた、だめなんだって」っていうふうに教えてくれてました。 タコなんかは獲れたな。そしてね、8月になるとね、木の実が、高山植物、ね、フレップっていうんだ、みんなひっくるめてね。こんな大きいフレップやら、こんなね、もういろんなフレップなってね。今、行くとね、ほら、行動が自由でないしょう。今、行ってもね。ハンターさんが3人ついてっからね、うるさくてね。だから、8月行ったら、とって食べたいねえって、みんな言う。 オンコの実だって、こっちで食べないしょう。オンコの実、食べんだよ。こんなにおっきくなるから。そしてね、「オンコの実とりに行ったら、絶対下を先にみて、熊いるか、いないか確かめてからとるんだよ」ってね、言われてるからね。でもたくさん熊いるんだけど誰も食べられた人はいない。