【イスラエル取材記】「No Words」~はてしない憎しみの連鎖 戦争と共に生きる人々【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
■突然の大音響…そこで見たものは?
イスラム組織ハマスが「怒りの日」と名付けた13日の金曜日。私たちは東エルサレムの旧市街にいた。ハマスが全世界に向けて、抗議行動を呼びかけた日だ。イスラム教徒が集団礼拝を行う金曜日は宗教心が高まりやすく、抗議活動や暴動が誘発されやすい。 イスラム教の聖地「アルアクサ・モスク」の周囲では緊張が高まり、旧市街への入り口はライフル銃を持ったイスラエル兵が固めていた。前夜、テルアビブから同行してもらったユダヤ人のスタッフに聞くと、「そもそも旧市街は(ユダヤ人が使う)ヘブライ語を話す人はほとんどいないし、ユダヤ人は襲われる危険があるので行けない」と首を振った。 代わりにアラビア語を話すパレスチナ人の通訳を雇った。すべてのものごとには、いろいろな側面がある。イスラエルの側から見ているだけでは分からない。 ユダヤ人スタッフの予感は的中した。私は中国特派員時代に何度も拘束され、直近ではウクライナ侵攻も、モロッコ地震取材も経験した。でも、今回の取材はまったく違う。頭上にミサイルが飛び、ガザ地区に近いイスラエル南部の地域では警報が鳴ってから15秒でシェルターに避難しなければならない。常に死の恐怖が身近にあった。 パレスチナ人コーディネーターとモスクに礼拝に来たパレスチナ人を取材していると、突然、パンパンパンパン!という大音響が響きわたった。周辺に配備されている大勢のイスラエル軍兵士たちがすぐさまライフル銃を構える。隣で誰かが「逃げろ!」と叫んだ。全員でちりぢりに走って逃げた。 ひたすら走って音から遠ざかり、仲間の1人はトイレに隠れた。もう大丈夫、というところまで逃げた時、そばにいたパレスチナ人が「あれは“スタングレネード”だから大丈夫だ」と言った。さらに問うと、“スタングレネード”とは「閃光(せんこう)手りゅう弾」のことで、大音響や光を発する非致死性の兵器だと教えてくれた。彼は「俺たちには銃も実弾もない。だからあんなもので、せめてもの抵抗の意思を示すんだ。花火みたいなもんさ」…丈の長い伝統的な衣装ガラビアの裾を直しながら、皮肉な笑いを浮かべた。