肥満より怖い子どもの「やせ願望」。児童精神科医が警鐘を鳴らす、“摂食障害”の恐ろしさ
「肥満=健康を害するもの」そして「肥満=美しくない」というイメージが一般に浸透しているため、「子どもを太らせないように」と気をつけている親御さんは多いでしょう。けれど逆に、肥満への恐怖が引き起こす「摂食障害」は、「子どもの生命を危機にさらす可能性のある危険なもの」だと意識したことはあるでしょうか。 児童精神科医として数多くの摂食障害の子どもを診察してきた宇佐美政英先生に、「子どもの肥満への対応」と「子どものうちから“やせ”を意識することの弊害」についてお話を伺いました。 睡眠不足は肥満のもと!? 子どもの“睡眠の質”を上げるために親ができること
「子どもの体重は増えるもの」という意識を親子で持つことが大事
いわゆる「拒食症」と呼ばれる「神経性やせ症」は、「思春期やせ症」とも言われるように、思春期のとくに女子に好発する精神疾患です。だいたい10歳過ぎくらいからですね。グループで内緒話をしたり、「ちょっと男子、うるさい」って言い出すくらいから思春期に入るわけですが、その年頃になると外からの視線を意識し出すので、痩せているとか太っているとかが気になりだします。 けれど、ダイエットして体重を減らすというのはおすすめしません。子どもは背が伸びるので、体重が横ばいでも本当は良くないんです。身長が伸びる時期に体重が横ばいだったら、それだけで痩せちゃいますから。まずは、「子どもの体重は増えるもの」ということを、大人も子どももしっかり認識することが大事です。 子どもの体重がしっかり増えているかを確認するには、「成長曲線」をつけてみてください。BMIは、大人に比べると子どものほうが低いので参考にならないときもあります。体重も身長も成長曲線で見ておけば、急に伸びが止まってしまう子はすぐわかります。体重の伸びがゆるやかになって少しずつ痩せてしまうのはある程度仕方ありませんが、突然横ばいになったり、下がったりしてしまうのは危険信号です。
摂食障害でやせてしまうとこころが変化して食行動が元に戻れなくなる
摂食障害が怖いのは、やせてしまうと食行動が「元に戻らない」というところです。子どもはもともと余力がないので、やせ始めると止まらない。 摂食障害というのは限界までやせてしまうんですが、ある程度までやせてしまうと生物学的に元に戻りにくくなります。脳が萎縮して、変化します。少ない食事量で満足し、その状態で「自分は調子がいい」と感じてくるようになるんですね。野生の動物も、獲物が少ないときにたくさん食べなきゃ満足できない脳だとつらいですよね。だから少しの食事で満足できるようにダウンレギュレーション(下方制御)していくんです。 なので、傍から見たら病的にやせてしまっていても、摂食障害の子どもたちは自分の調子がいいと思っています。親御さんは心配して病院に連れてくる訳ですが、本人たちに危機感はない。そこが噛み合わないところでもあります。