肥満より怖い子どもの「やせ願望」。児童精神科医が警鐘を鳴らす、“摂食障害”の恐ろしさ
価値観ができあがる前の子どもたちには外見ではなく、内面についての言葉がけを
大人になって自分というものができてくると、自分の価値や長所もそれなりにわかってきますよね。そうすると、多少見た目のことを言われても「そういうところもあるけど、自分にはこういう良いところもある」と思えるでしょう。 でも、子どもはまだそういう価値観ができる前の段階ですから。外見的なことを言われても寄るすべがないと、あっという間に自信がなくなってしまいます。 「自分ってそんなに大したことないけど、いいところもあるよな」って、悩んだ末にようやく等身大の自分を受け入れられるようになるのは、思春期を通り越した後なんですね。 思春期真っ只中の子どもたちは他者の視線が気になるから、自分の見た目をすごく気にするんです。それでひとりだと不安だからグループを作って、他の人たちに意地悪したりしながらグループの結束を高めるわけです。女子も男子も。 思春期というのは、児童期まで抱えてきた健全な万能感をさまざまな体験とともに捨て去る時期なので、「自分は何者なんだ」と不安でしょうがないんですね。 そんな時期の子どもが外見のことばかり言われてしまうと、「じゃあ自分って、見た目も何もかも価値がないんじゃないか」という気になってしまいます。だから、とくに親御さんは外見に関することは何も言わずに、やさしいところだとか、人懐っこいところとか家の手伝いをしてくれるところとか、そういう内面の良いところを見てあげて、積極的にほめることが大事だなと思います。 体型の話は、自分の価値観がしっかりするまではちょっと待ってあげましょう。 ルッキズム(外見至上主義)をやめようというムーブメントが起こりつつある昨今でも、軽い気持ちで発してしまいがちな「太った?」「ぽっちゃり」などの体型に関する言葉。大人が投げかけるそんな言葉たちが、子どもを摂食障害に追い立てたり、自己肯定感を下げたりしているかも……。そんなことに気づかされる興味深いお話でした。 【PROFILE】宇佐美 政英(うさみ・まさひで) 児童精神科医。国立国際医療研究センター国府台病院 児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長、心理指導室長。日本児童青年精神医学会認定医・代議員、日本ADHD学会理事、精神科専門医・指導医、子どものこころ専門医・指導医、厚生労働省認知行動療法研修事業認定スーパーバイザー。