山田尚子監督最新作『きみの色』はIMAX推し!まばゆいほど美しい青春の“色と音”を全身で浴びる
『映画けいおん!』(11)や『映画 聲の形』(16)など稀有な映像センスと、キャラクターの気配までを感じられるような繊細な演出で、いまや全世界から最も脚光を浴びるアニメーション監督の1人となった山田尚子。待望の最新作となる完全オリジナル長編アニメーション『きみの色』が、いよいよ公開となった。それぞれ悩みや秘密を抱えた3人の少年少女が、音楽をとおして成長していく姿を描く本作。主人公たちの体感している青春の色、音、輝きが限りなく広がり、観客もそれらを共有できるような1作は、大スクリーンで観なければもったいない!どこを切り取っても絵画のような映像美、心弾むバンドサウンドに彩られた3人の心の旅路は、極上の映画体験を叶えるIMAXでこそ徹底的に堪能できるはずだ。そこで、IMAXでさらに本作を楽しむためのポイントをご紹介してみたい。 【写真を見る】人が“色”で見える高校生のトツ子役は、1600人に及ぶオーディションから選ばれた鈴川紗由が演じる ■山田尚子監督、待望の最新作を大スクリーンで目撃! 人が“色”で見える高校生のトツ子(声:鈴川紗由)が、ある日同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみ(声:高石あかり)と、音楽好きの少年・ルイ(声:木戸大聖)と古書店で出会い、音楽をとおして心を通わせていく姿を描く本作。 軽音部の面々のにぎやかな卒業旅行を捉え、社会現象となった『映画けいおん!』。ガキ大将だった少年と聴覚障害のある少女の交流をつづった『映画 聲の形』、進路と選択によって巻き起こる高校生の葛藤をつづった『たまこラブストーリー』(14)や『リズと青い鳥』(18)など、観客の心をわしづかみにする映像と演出力で、作品を発表するごとに話題を呼んできた山田監督。本作は『リズと青い鳥』以来6年ぶりの長編映画で、山田監督が得意としてきた“音楽×青春”の集大成とも言える作品として完成した。 本作はアヌシー国際アニメーション映画祭2024の長編コンペティション部門に出品され、エンドロールでスタンディングオベーションが巻き起こる歓迎を受けたほか、第26回上海国際映画祭金爵賞アニメーション最優秀作品賞を受賞するなど、日本のみならず、世界中で高い評価を受けている。アヌシーのプレミア上映後に行われた山田監督によるサイン会に300人が長蛇の列を作ったという出来事からも、国境を超えて山田監督がいかに愛され、作品を待ち望まれている存在であるかがわかる。世界の第一線で活躍する彼女の最新作という意味でも、IMAXの大スクリーンで目撃するべき作品と言えよう。 緻密な描写を積み重ね、気配や体温まで伝わるようなキャラクターが躍動している点も、山田監督作品の魅力の一つ。ニコニコと目尻を下げながら猫と歩調を合わせたり、両手でお財布やペットボトルを持つ仕草からも、天真爛漫なかわいらしさが伝わるトツ子。まつ毛や瞳の揺れからも、隠し事をしている戸惑いがにじみ出ているきみ。楽器を操る手つきからも音楽が大好きなことがわかるルイ。きみが船酔いをしたトツ子の体にそっと手を触れたり、トツ子ときみに再会した喜びから足取りが軽くなるルイなど、どこまでも繊細な演出によって、キャラクターの個性や心の揺れ動き、関係性の変化までが表現されている。細部までシャープかつクリアな映像を届けるIMAXならば、キャラクターの一挙手一投足、そして山田監督による演出のすごみを隅々まで味わえるはずだ。 ■目の前に広がる圧倒的な“色”の世界で、特別な映画体験を 思春期をひたむきに歩む若者たちを主人公とした本作は、彼らの生きる世界が美しい色彩によって描かれている。赤、青、白、黄など色とりどりの花々、日が差して光る波、キラキラと瞬く夜景もカラフルで美しく、冒頭からいっきにその世界へと誘われる。トツ子ときみがお泊まりをする学校の寮、彼らが出会う古書店、バンド練習を重ねる古教会など、3人にとって大切なものとなる場所も、床のきしみや香りまで漂ってくるような丁寧な描写で描かれており、惚れ惚れとするほど美麗だ。 人が“色”で見えるけれど、自分の色はわからないトツ子。勝手に退学したことを、家族に打ち明けられないきみ。母親からの将来の期待に反して、隠れて音楽活動をしているルイ。それぞれに葛藤を抱えている3人だが、次第に悩みを話せるような関係となり、それを分かち合っていく展開が胸に迫る。3人が暗い部屋に赤いロウソクを灯しながら、自身の想いを告白するシーンも美しい。黒色も鮮やかに映しだし、深みあるコントラストを実現するIMAXならば、よりドラマチックなものとして3人の友情が染み渡るだけでなく、その空間に飛び込んで一緒に特別な時間を共有しているような臨場感を得られるだろう。 また人が“色”で見えるトツ子の目に映る景色は、「彼女には人や世界がこう見えているのか!」とハッとさせられるようなシーンの連続だ。トツ子にはきみが青色、ルイが緑色を放っているように見えており、3人が心を通わせていく様子を色が混ざり合うことで映しだすなど、観客は新鮮な視覚表現を目にできる。“色”に並々ならぬこだわりを込めて制作された本作は、幅広いカラーパレットを有するIMAXこそ、真価を発揮する作品と言えるかもしれない。恋にときめいている人を見たトツ子が、そのドキドキをあふれだす“色”として感じる場面も圧巻!アニメーションでしか到達できない表現に挑んだ数々のシーンを、圧倒的に明るい映像を実現し、壁一面に広がるIMAXの大画面でぜひ楽しんでほしい。 ■青春の輝きが詰まったバンドサウンドに心が躍る! これまでにも山田監督は、「けいおん!」シリーズや『リズと青い鳥』など、音と映像、キャラクターの感情が溶け合った名作を生みだしてきた。トツ子、きみ、ルイが3ピースバンド「しろねこ堂」を結成し、バンド活動に励みながら絆を深めていく姿を描く本作では、彼らが奏でるバンドサウンドも大きな醍醐味となっている。 「しろねこ堂」ではトツ子がピアノ、きみがボーカル&ギター、ルイがテルミン&オルガンを担当している。彼らが初めて音を重ねる場面はこちらがドキッとするほど衝撃的で、一緒にオリジナル曲を作ろうと挑戦していく過程も喜びとワクワク感に満ちている。宝物のような仲間と出会ったトツ子の高揚感が鼓動のように聴こえてくる場面もあり、どの音もいつでも完璧にチューニングされたサウンドを実現するIMAXで耳にすれば、没入感もたっぷり。 音楽を担当したのは、『映画 聲の形』や「チェンソーマン」などの牛尾憲輔。牛尾が作りあげた楽曲は、3人の等身大の姿を見事に投影した名曲ぞろいだ。例えばトツ子が担当した「水金地火木土天アーメン」について、山田監督が「トツ子の真っ直ぐな性格の明るさや芯の強さが、おもしろおかしく、かわいらしく表現されている」とオフィシャルインタビューで語っているように、曲自体が彼らそのものといった楽曲となっている。また世界最古の電子楽器である、テルミンの音にも注目。客席全体にオーディオを均等に分配したIMAXで聴けば、伸びやかでどこか暖かな味わいのある音に包まれたような陶酔感を与えてくれるだろう。 そしてボルテージが最高潮に達するのが、学園祭での初ライブシーンだ。それぞれの性格や想いを爆発させるようなライブシーンは、劇中の観客と一体となって手をあげて、リズムに乗りながら応援したくなるような場面で、最高にエモーショナル!エッジの効いたギターから始まり、聖歌隊に入っていた経験のあるきみの歌声、飛び跳ねるように歌うトツ子のコーラスなど、澄んだ深みのあるサウンドを叶えるスピーカーが用意されたIMAXならば、まるでライブ会場にいるような気持ちになってあらゆる音に鳥肌が立つこと必至。ズンズンという低音ビートも、お腹に響くような心地よさを体感できる。初声優に臨んだ鈴川、高石、木戸の熱演もすばらしく、IMAXで迫力のバンドサウンドやトツ子&きみ&ルイの吐息までを全身で浴びて、彼らの魂の音に胸を躍らせてほしい。 主題歌は、Mr.Childrenの「in the pocket」。作詞作曲を務めた桜井和寿は、「主人公たちにはその繊細さのまま、その柔らかさのまま、しなやかに強く飛び立ってほしい。そんな歌でありたいと、願いを込めてレコーディングをさせてもらった」とコメントしている。観終わったあとには、自分が生きている世界までが美しいものに見えてくるような感動作。主人公たちだけでなく、観客も優しく包み込むようなさわやかな主題歌までIMAXのサウンドで聴きとげ、青春の色と音に満ちた『きみの色』の世界に存分に浸ってみてはいかがだろう。 文/成田おり枝 ※高石あかりの「高」は、「はしごだか」が正式表記