なぜ「京急電鉄」沿線住民の<愛線心>はこれほど高いのか。美しい塗色、走りのよさ、サービス…<鉄道事業そのものへの愛>が生まれる背景
『沿線格差』という言葉を目にすることが増えましたが、フリーライターの小林拓矢さんいわく、「それぞれの沿線に住む人のライフスタイルの違いは、私鉄各社の経営戦略とも深くかかわっている」のだとか。今回はその小林さんに「京急電鉄沿線の魅力と実情」を紹介していただきました。小林さんが言うには「京急電鉄は鉄道事業そのものが愛されている」そうですが――。 【書影】関東8大私鉄の「沿線力」を徹底比較!小林拓矢『関東の私鉄沿線格差: 東急 東武 小田急 京王 西武 京急 京成 相鉄』 * * * * * * * ◆京急電鉄沿線の魅力と実情は? 京急電鉄は、沿線住民に愛されている鉄道会社である。 しかし東急電鉄のように、グループ全体でフルサービスを提供することで沿線住民の支持を受けている、というスタイルではない。 もちろん、京急グループにはホテルもあれば、スーパーマーケットもあり、クレジットカードもある。 だが京急の「愛され方」は、そのあたりがしっかりしているからというものではない。 鉄道事業そのものが愛されているのだ。京急沿線住民の「愛線心」の高さは、鉄道そのものの魅力が生み出しているところがある。 そんな沿線住民の鉄道愛を感じさせるのが、横浜駅から徒歩10分ほどの京急グループの本社にある「京急ミュージアム」である。 小さい展示施設ながらも、京急の歴史や車両、沿線について知ることができ、興味深い施設となっている。 「京急ミュージアム」は、2020(令和2)年1月にオープンし、当初から入館には予約が必要だった。 コロナ禍を経てもなお、予約制を採用せざるを得ないほどの人気施設である。
◆横浜以遠の地域 なお、京急沿線自体は所得の高い人たちばかりが暮らしているわけではない。 工業エリアと住宅エリアが混在するのが品川から横浜までの間であり、東海道沿いにあるという立地でも、地価は高いほうでもない。 工場などが沿線に多いということで、もともとはブルーカラー労働者が多く暮らしているエリアである。 ファミリー向けが多いとはいえ、住宅の平均面積もけっして広くはない。あくまで所得水準が一般的な程度の人向け、というものが多いようだ。 車窓を見ると住宅が密集しており、広い土地を使用した住宅が建てにくいエリアだと感じさせられる。 だがそういった風景は、横浜を過ぎてしばらく経つと変わっていく。逗子や久里浜などは、リゾートの雰囲気もある。 京急電鉄でラッシュ時に混雑しているのは、じつは品川駅手前ではない。横浜駅手前である。横浜以遠の地域に多くの人が暮らし、京急で横浜までやってきて、そこでJRに乗り換えて都心の勤務先まで行くというのがわかるようである。
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