なぜ「京急電鉄」沿線住民の<愛線心>はこれほど高いのか。美しい塗色、走りのよさ、サービス…<鉄道事業そのものへの愛>が生まれる背景
◆車両と走り そういった地域を走る京急は、車両と走りにこだわっている。 京急の車両は「赤」が印象的であり、主力車両である1000形電車の一部の車両に塗装が施されず、ステンレス地をさらした際には、京急ファンから反発が起こったほどだ。 その後に投入された同形車両では、フルラッピングや全塗装となってひと目でわかる「赤」が復活し、ファンを喜ばせた。20次車「Le Ciel」はブルーリボン賞を受賞している。 走りも、先頭車を電動車にし、高速性能も向上させ一部区間では時速120キロ運転として高い評価を得ている。 車両は、2扉クロスシートの2100形の人気が高い。地下鉄に乗り入れず、速達型専用車両であり、ラッシュ時には座席指定列車に使用される。 また、首都圏の私鉄としては珍しく、途中駅での増解結をひんぱんに行なう。ラッシュ時などは、途中駅で増結し、品川駅で解結という列車もある。 このように、他の私鉄に比べて独特の鉄道事業を行なうという姿勢が、京急沿線住民の「愛線心」につながっている。 このあたりは、沿線のあらゆる階層の人間に共通する意識であると考えられる。京急沿線の住民は、経済状況に関係なく京急電鉄を愛しているのだ。 それゆえに近年、一部で報じられる京急電鉄の労働環境の問題は、残念なことに思える。
◆選ばれる沿線 京急沿線住民が「京急ミュージアム」に押し寄せることから、京急電鉄は沿線住民のあこがれといっても過言ではない。 美しい塗色の車両、走りのよさ、きめ細かなサービスは鉄道で働く人たちの日々の努力によって成り立っているのだ。 京急電鉄は、グループ内で不動産事業に力を入れており、手がける分譲マンションの広告が車内の中吊(なかづ)りにもある。 京急沿線住民が京急を愛しているからこそ、京急の沿線を離れたくないという思いがあり、こうしたマンションの需要もある。 「選ばれる沿線」という言葉は多くの私鉄が使う。 京急は鉄道の魅力ですでに「選ばれ」ている。 京急電鉄には、鉄道そのものをもっと大切にしてほしい。 ここまで愛されている首都圏私鉄はそうはなく、その意味でポテンシャルはものすごく高いのだから。 ※本稿は、『関東の私鉄沿線格差: 東急 東武 小田急 京王 西武 京急 京成 相鉄』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
小林拓矢
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