【課題】再審の行方を左右する「証拠開示」を考える 法律に規定なく「裁判官の裁量」えん罪被害を繰り返さないために
FBS福岡放送
こちらは、1966年に静岡県で起きた一家4人殺害事件の再審=やりなおしの裁判で無罪を勝ち取った袴田巌さんです。再審が動き出すきっかけは、検察が隠していた証拠が「証拠開示」という手続きにより、明るみになったことでした。再審の行方を左右する「証拠開示」について考えます。 【画像】再審の行方を左右する「証拠開示」を考える 法律に規定なく「裁判官の裁量」えん罪被害を繰り返さないために
福岡市に事務所を構える岩田務弁護士。1992年に福岡県飯塚市で女児2人が殺害された「飯塚事件」の再審請求で主任弁護人を務めています。逮捕から58年を経て袴田巌さんの無罪が確定したニュースに触れて、感じていることがあります。 ■飯塚事件 再審弁護団・岩田務弁護士 「日本の刑事司法の病理は、検察官が証拠を独占していること。有罪にするものだけを出して、無罪方向の証拠は隠している。」
独房から無実を訴え続けた袴田さん。裁判のやり直しを求めるなかで大きな転換点となったのが、犯行時の着衣とされ死刑判決の決め手とされた「5点の衣類」のカラー写真が、裁判所の「証拠開示勧告」で明らかになったことです。 この「5点の衣類」は事件から1年2か月後、袴田さんの勤務先の「みそタンク」から見つかりました。
検察が表に出してこなかったそのカラー写真が、事件の深い闇を浮かび上がらせます。赤みがはっきりと残る血痕、生地が白いままのシャツ。弁護団が実際に1年2か月、血染めの衣類をみそに漬ける実験をしましたが、全く違う色でした。 ■裁判長 『1年以上みそ漬けされた場合、血痕の赤みが残るとは認められない』 判決は「5点の衣類」は捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、みそタンクに隠されたもの、つまり「ねつ造」だと認定したのです。
■袴田事件弁護団・小川秀世弁護士 「警察や検察が、隠された状態で何をしても分からないという、あとで検証ができない状態になっているんです。そういうことができない刑事手続きに直していかなければいけないと思います。」
死刑が確定したのち、再審で無罪が確定するのは袴田さんで戦後5人目です。1980年代には、死刑が確定していた4人が相次いで再審無罪となりました。熊本の免田事件、香川の財田川事件、宮城の松山事件、静岡の島田事件です。 しかし、その後も「えん罪被害」は後を絶ちません。多くで「証拠の開示」により無罪方向の証拠が明らかになり、有罪判決が覆されることにつながっています。ただ、法律に再審における証拠開示の規定はなく、証拠開示が行われるかどうかは「裁判官の裁量」に委ねられているのが現状です。
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