「懸命に赤ちゃんの世話をしていたのに…」パンダのタンタンを見守り、寄り添い続けた飼育員さんの切実な思い
次々に悲劇が襲い…
赤ちゃんが亡くなった2年後、さらなる悲劇がタンタンを襲った。パートナーである雄のコウコウが、突然、命を落とした。赤ちゃん、コウコウと次々に亡くし、動物園に一頭だけ残されたタンタン。 その境遇に観覧者たちは心を痛め、より強くタンタンを応援するようになった。 パンダの出産シーズンである夏が近づくと、タンタンは見る人の心を揺さぶるある行動をとるようになる。 「あー、竹を抱いちゃっているね」 コウコウの死から10年が経った2020年の8月、タンタンの様子をうかがっていた梅元は、ため息をつきながらつぶやいた。屋内展示場にいるタンタンが、タイヤに座りながら両手で竹を抱えている。 食べるのかとしばらく待っていても口に入れる素振りは見せない。ただ竹を抱き、ときどき口元に寄せてはぺろぺろとなめるだけ。これは梅元たちが「偽育児」と呼んでいる行動。タンタンは出産したつもりになって、竹を赤ちゃんに見立てて抱いているのだ。 出産シーズンである夏が近づくと、竹などを抱いて手放さなくなる。この偽育児、タンタンだけが特別なわけではなく、雌のパンダに見られる生態。それでも、ずっとそばで見守ってきた梅元や多くの観覧者には、この行動を見るたび感じることがある。 「赤ちゃんに触れてから、あの子の中で母性がめばえてしまったのかな……」 梅元が静かにつぶやいた。
杉浦 大悟(NHK 専任部長)