「懸命に赤ちゃんの世話をしていたのに…」パンダのタンタンを見守り、寄り添い続けた飼育員さんの切実な思い
一生懸命、赤ちゃんの世話に打ち込むものの…
ところが、出産を控えた5月12日、思ってもみなかったことが起きた。マグニチュード7.9の四川大地震が発生。震源地に近い研究センターも壊滅的な被害を受け、専門家の来日はかなわなくなった。小さな命は、育児経験のないタンタンと梅元ら動物園スタッフの手にゆだねられた。 タンタンは母乳をねだる赤ちゃんをなめたり胸の上にのせたりしながら、自分自身は食事もほとんどとらず一生懸命、世話に打ち込んだ。 梅元たちもタンタンの母乳が出なくなったときに備え、パンダの赤ちゃん専用の粉ミルクを用意したり、赤ちゃんの体温が下がったときのために大量の毛布や保育器を準備したりして、24時間体制で見守った。こうして最も死亡リスクが高いといわれる生後72時間を、なんとか無事に乗り越えることができた。 このまま順調に育っていってくれればと願った矢先、事態は急変した。 誕生から4日目。 モニターでタンタンと赤ちゃんの様子を見ていたスタッフが、声をあげた。 「赤ちゃんが動いてないぞ」 さっきまで大きな声で鳴いていた赤ちゃんが、コンクリートの床に横たわっている。タンタンも異常を感じとったのか、ぺろぺろと必死に赤ちゃんをなめている。 「すぐパンダ舎に来てください。赤ちゃんが動いていません」 知らせを受けた獣医師があわててかけつけると、寝室で横たわる赤ちゃんを手に取った。聴診器をあてる様子を梅元たちは祈るような気持ちで見ていたが、獣医師は悔しそうな顔で首を横に振った。 神戸の人たちが会えるのを心待ちにしていた赤ちゃんパンダは、誕生からわずか4日目、その短い生涯に幕を閉じた。検死の結果、死因は栄養失調。ちゃんと授乳していたように見えていたのに、どうしてそんなことに……。
赤ちゃんの体をなめ続けたタンタン
タンタンが赤ちゃんを世話する様子をモニターで見守っていた梅元には、ひとつ思いあたる節があった。それはタンタンが、何度も赤ちゃんを床に落としていたこと。 一般的に、お母さんパンダはパンダ座りで姿勢を安定させて赤ちゃんの世話をする。ところがタンタンは骨格的な問題もあるためか、赤ちゃんを世話するときにパンダ座りをしていなかったという。体勢を変えながら抱こうとしたが、手足が短いこともあってうまく安定させられず、赤ちゃんを床に落としてばかりいた。 手足が短く、体が小さいこと。そして上品そうな姿勢で食事をとることから見る者をひきつけ“神戸のお嬢さま”と呼ばれるタンタン。そのチャームポイントが、赤ちゃんを育てるうえではデメリットになってしまったのかもしれない。 「なんとか赤ちゃんを安定させようと懸命に世話していたんだけど……。タンタンは本当に、母性が強いパンダなのに……」 赤ちゃんが息を引き取った後も、タンタンはその小さな体を放さず、ずっとずっと、なめ続けていた。その様子を呆然と見つめながら、梅元は自分の無力さとタンタンに何もしてやれなかった悔しさで、心が張り裂けそうだった。