【MotoGP】KTMはMotoGP参戦を守りきれるのか? 陣営の“至宝”ペドロ・アコスタは流出の危機
2024年の終盤になってKTMが経営危機に陥っていることが明らかとなった時、同社陣営のMotoGPライダーであるペドロ・アコスタは自宅のソファーでくつろいでいた。デビューイヤーをランキング6位で終えるという、素晴らしい結果を残した直後のことだった。 命懸けの戦いの記録:2024年モータースポーツ大クラッシュ集 KTMの親会社であるピエラー・モビリティAGがいわゆる民事再生の手続きに踏み出したことが明かされた後、アコスタはこの状況をより詳しく把握するために、KTM本拠のオーストリアへと飛ぶことを選んだ。 そこでアコスタはKTMのモータースポーツ部門を率いるピット・ベイラーとミーティングを行なった。アコスタのマネージャーも同行したこの訪問では、彼らがMotoGPを継続するという約束が確認され、緊張の緩和に役立った。 しかし、KTMのMotoGP参戦継続の約束には、その後も疑義が呈される状況が続いてしまっている。債務処理を担当する代理人を務めるアルペンランディッシャー・クレディトーレン・バンド(AKV)が、裁判所で行なわれた債権者との初会合後の報告で、「コスト削減のため、MotoGPおよびMoto3/Moto2からの撤退を計画している」と報告。そして2026年にも、それが現実のモノとなると囁かれているのだ。 「KTMはモータースポーツにしっかりとコミットしている。2025年に向けて、我々はMotoGPに参戦し続けるという主張を繰り返す!」 こうしたKTM側の声明が、”2025年”も参戦を続けるという表現に終始していることも、2026年撤退説をより現実味のあるものになっている。 KTMはスローガンとして『Ready to Race』という言葉を掲げてきているため、レースへ参戦していることはブランドイメージにとっても重要だ。そのためMotoGPなどのシリーズに参戦し続ける意図を持っているのも当然だろう。 しかしここで考える必要があるのは、KTMの経営危機によって職を失ってしまった人が何百人もおり、さらに給与の未払なども発生してしまっていることだ。そして現在KTMを率いている人々の中でも、CEOのステファン・ピエラは過剰在庫による負債増加に対する、直接の責任があると多くの人から指摘されており、風当たりは強い。 あるKTMの内部情報筋は、motorsport.comに対して次のように語った。 「非常に驚くべき出来事だ。私は2022年末にピエラと会食したときのことを覚えている。そこで我々は彼に対して既に2024年の販売危機に対して備えるように警告していたんだ。理解できないのは、彼は優秀なビジネスマンで我々のボスであるにもかかわらず、対策を講じずに生産能力は最大のまま続けられたことだった」 そのピエラCEOは最近は問題の矢面に立つことなく、決定を同ブランドにおけるパートナーであるハインツ・キニガドナーに委ねている。 大幅に株価が下落している状況ではあるが、KTMに対しては潜在的な投資家からのアプローチもある。中にはF1で7度世界王者でありバイクファンでもあるルイス・ハミルトンが興味を示しているというものもあった。 ただハミルトンによる投資は、実現しないだろう。なぜなら、誰がKTMの舵を採っていくにしても、レース部門だけではなく会社本体を救うために資金を注入することが望まれているからだ。 KTMに対する投資シナリオで考えられるのは、既存株主であるバジャジや、グループのパートナーである中国のCFモトなどだろう。またステファン・ピエラが取締役のひとりとなっているメルセデスの線も考えられる。 一方でKTMの経営陣は、レース部門が独立していることから存続できると確信していることも分かっている。問題は、この状況で傘下のライダーたちがそれが実現することを信じられずに、動き出してしまっている点だ。 実際、KTMの経営危機を受けて陣営の至宝と言えるライダーのペドロ・アコスタには他メーカー移籍にも興味を示している。アコスタはMoto3とMoto2の2クラスをわずか3年で制し、2024年のMotoGPデビューイヤーから表彰台を獲得する高いパフォーマンスを見せているライダーで、彼に対する“求婚者”は列をなしている。 「全てのファクトリーが私に連絡をとってきてペドロの状況について尋ねてきている。この状況が彼に影響を与えないことを願っているよ」 アコスタのマネージャーであるアルバート・バレラは、motorsport.comスペイン版のポッドキャストに出演した際、そう語った。 「ペドロの市場価値の毀損を許すことはできない。私の仕事は可能な限り早くに勝てるプロジェクトを確保することなんだ。もし今起きていることがペドロの将来に影響を与えると分かったら、彼がMotoGPタイトルを争うために必要な道具を手に入れられるよう、動き始めるつもりだ」
Oriol Puigdemont