作家と挿絵画家の絶妙な関係性 宮部みゆき『三鬼』の挿画が誕生するまで
作家・宮部みゆきの小説『三鬼ー三島屋変調百物語』シリーズなどの挿画と世界観が見られる「北村さゆりの挿画展―宮部みゆき『三鬼』の世界―」が丘の上APT/兒嶋画廊(東京・国分寺市泉町)で開かれている。 江戸時代の庶民ものでは定評がある宮部作品の中でも2006年から始まった同シリーズは、雑誌や新聞など発表の舞台を変えながら連載が続けられている人気作だ。北村さゆりは、日本画家として活躍する傍らで、雑誌や新聞などに掲載される小説の挿画も数多く手掛けている。宮部とは、単行本『孤宿の人』(2005年、新人物往来社)の表紙を描いて以来の付き合いとなる。 連載小説の挿画は、何よりも作品との親和性が大切で、読者がイメージを膨らませるのに欠かせない存在となっている。作家・宮部と画家・北村はどんな距離感で世界観を作り上げていったのだろうか?
意表を突いた表紙の鬼の絵
昨年12月に刊行されたシリーズの単行本最新作『三鬼―三島屋変調百物語四之続』(日本経済新聞出版社)を手に取って、おや? と思われた方もいるだろう。今までのシリーズとは表紙絵の雰囲気が随分と違うからだ。 「宮部ファンに嫌われるのを覚悟の上で、思いっきり趣向の違う表紙絵にしようよという装丁家の提案で、大丈夫なの? やっちゃうよ? と、思いきってこの鬼の絵を描きました」と語る北村。 これまでは、妖怪や幽霊が登場する作品であっても、どちらかというと柔らかく、ほんわかとした絵が宮部作品の表紙を飾ることが多かった。ところが『三鬼』では、厳冬の雪山の上を飛ぶ恐ろしい形相の鬼が描かれている。どきっとするほど、冷たく、人の心の底を見透かすような鬼の瞳。それでいて、どこか懐かしさと温かささえも感じさせるのは、鬼が人の真実を引き出す装置として登場する物語世界を描き込んでいるからかもしれない。 単行本『三鬼』は、日本経済新聞で2015年6月1日から1年1カ月に渡って連載された『迷いの旅籠』『食客ひだる神』『三鬼』『おくらさま』の4編をまとめたもので、北村はこの連載中に384点の挿画を描いた。