都内の公園で亡くなった「ホームレス女性」が遺した大量の手書きノートをまとめた本 部数は1万部以上に(レビュー)
二十年ほど前、見知らぬ中年女性に突然話しかけられたことがある。「昨日から何も食べていないので百円貸してくれませんか」。当時、学生だった私の中にあった“ホームレス”像と、目の前の彼女の姿はまったく重ならなかった。 【画像】「4月28日 私は集団生活ができない。」写真で『小山さんノート』を見る 昨年十月に刊行されたこの『小山さんノート』を読んで愕然とした。あのとき自分に見えていなかったもの、想像しようとしなかったものをそのまま差し出されたような気がした。 「そうやって自分ごととして考えながら、生きてきた時間や経験にひきつけて読んでくれる読者が多いんです。嬉しいし、この本の在り方が通じているような気がしています」(エトセトラブックス・松尾亜紀子さん) 2013年末、都内の公園で亡くなったホームレスの女性「小山さん」。彼女が暮らしたテントの中には、なにやら手作りのキラキラしたものと、大量の手書きのノートが遺されていた。それらを有志の女性たちで書き起こし「身を切る思いで抜粋した」ものが本書だ。 厳しい生活に疲弊しきっても、理不尽な暴力に幾度となく晒されても、自らの尊厳を守るためにノートに向かう時間は手放さなかった小山さん。まるでひとつにくくれない言葉の奔流を目で追ううちに、編者となった人びとが八年かけてようやく一冊にまとめたことの意味が迫ってくる。そこには、懸命に生きたひとりの女性に対する惜しみない敬意がある。 「必要な人に届いてほしい」と願った結果、現在四刷1万1000部。文字起こしや編集分の対価は得たとして、三刷以降の印税は寄付したいと編者たちから申し出があったという。寄付先の開示は先方の安全のためできないが、やはり社会から見えづらくされている人たちの支援者や、当事者の団体、差別の問題に抗している活動へなどだ。 「本書を“映像化したい”という話も多いのですが、いまはお断りしています。特に大手メディアには、それならば、小山さん以外の女性ホームレスの存在を無視しないでほしいと思います。この社会で見えていない部分にこそ、もっと思いを馳せてほしいな、と」(同) [レビュアー]倉本さおり(書評家、ライター) 1979年、東京生まれ。毎日新聞文芸時評「私のおすすめ」、小説トリッパー「クロスレビュー」、文藝「はばたけ! くらもと偏愛編集室」、週刊新潮「ベストセラー街道をゆく!」を担当、連載中。ほか『文學界』新人小説月評(2018)、『週刊読書人』文芸時評(2015)など。ラジオ、トークイベントにも多数出演。作品の魅力を歯切れよく伝える書評が支持を得ている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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