7カ月以上放置! 日本政府はなぜ中国の「不法ブイ」を撤去しないのか 「潜水艦運用に利用される」
ブイの撤去も条約違反ではないという解釈が
その後、11月1日の参院予算委員会で、上川陽子外相がこの問題について答弁に立った。質問者は日本維新の会に所属する東徹議員である。東氏のブイに関する中国側の対応についての質問に対し、上川氏は中国独自の主張に基づく立場の表明があったことを明かした。その上で、次のようなやり取りが交わされた。 東:中国に撤去を求めても中国が撤去しなかった場合、これは日本独自でやっぱり撤去するべきと思いますが、いかがですか。 上川:ブイの撤去等につきまして、国連の海洋法条約には明文の規定がございません。個別具体的な状況に応じて検討をすることが必要でありまして、その可否につきましては一概にお答えすることは困難と考えております。 この答弁に次いで、上川氏は外交ルートを通じて中国側に撤去要請を続ける考えを示したが、中国がそれを受け入れる可能性がゼロに近いことは言うまでもない。 上川氏の〈撤去について国連海洋法条約に明文の規定がない〉との指摘はその通りだ。が、規定がないのであれば、ブイの撤去も同様に違反しないとの解釈が成り立つ。仮にブイの撤去が条約に違反するなら、フィリピン政府は堂々と国際法違反を犯したことになる。
「主権を守る行動を取るべき」
そして11月16日、岸田総理はAPEC首脳会議出席のために訪れた米サンフランシスコで日中首脳会談を行った。この時、総理は7月に海保が発見したブイについて、習近平国家主席に再度、即時撤去を求めたものの、事実上拒否されている。一方これに先立ち、外務省の担当者は「国連海洋法条約に違反していると考えているが、撤去や没収などがどこまで認められるかは海洋法条約上の規定がなく、慎重な検討が必要だと考えている」との見解を示していた。 日本の立場からすれば、今回の事案は中国が国際法を無視してブイを設置したことが発端だ。中国の行為が明らかな国際法違反である以上、わが国は主権を守る行動を取るべきではないのか。規定などなくても、わが国の主権を脅かす無法な行為を正すための行動を“違法”ととがめる国など、中国と通じる一部の独裁国家を除けばほとんどあるまい。日本はわが国の主権が制限される形で、国連海洋法条約を狭義に解釈するべきではない。 一方、中国のブイは当該海域における波の高さや潮流などを観測し、周辺を航行する中国海警局所属の船の運用に活用している可能性を危惧する声もある。だが、それは甘い見方に過ぎると思う。海洋観測はその海域の詳細な特性を把握するのが主たる目的であり、将来的に海軍艦艇、とくに潜水艦の運用に活用されることは間違いない。 つまり、中国によるブイの設置は単発の案件ではなく「国家的海洋戦略」に基づく、継続的な戦略的行為と捉えなければ、中国の真意を見誤ることになる。