“北海道で一番小さい村”に移住して牧場とジェラート店を経営「目指すはニセコ」【名徳知記】
北海道で最も小さい村として知られる、音威子府(おといねっぷ)村。稚内よりも少し南、旭川から120キロほど北の場所にある。 【全画像をみる】“北海道で一番小さい村”に移住して牧場とジェラート店を経営「目指すはニセコ」【名徳知記】 街の中心にある音威子府駅を出て、まっすぐ進むと赤い外壁が目立つジェラート店が見えてくる。オープンの祝い花が並んだ店前には、人口620人の村とは思えないほどの行列ができていた。 ジェラート店「Gelateria the GreenGrass(ジェラテリア・ザ・グリーングラス)」オーナーの名徳知記(みょうとくとものり)は、オープン当日の2023年9月30日、自らエプロンをつけて店頭に立った。 子どもからお年寄りまで、ジェラートが並ぶショーケースを見つめる目は、みな一様にキラキラとしている。
大阪出身。酪農は素人だった
名徳は、北海道の北部に位置する音威子府村で、3つの事業を営んでいる。 1つは、2017年から続けている「名徳牧場」の経営。2つ目は、牧場でとれた生乳を使ったジェラート店「Gelateria the GreenGrass」の経営。3つ目はコテージ「ブルーベリーハウス」の運営だ。 名徳牧場がある音威子府村の村章は、家畜の餌を保存するサイロがモチーフになっている。かつて村は酪農とともに発展したが、高齢化による後継者不足や他の作物作りへの鞍替えで、音威子府村で酪農を営む者は名徳牧場だけになった。 名徳牧場は約40頭の搾乳牛を「放牧飼育」していることが特徴。なだらかな山に囲まれた牧草地を牛たちは悠々自適に歩き回り、自家産の牧草や季節の草を食む。 一方で、放牧の飼育をするうえでは経営者の負担が増えるデメリットも。牛たちが食べる物や量をコントロールすることが難しいため、乳量や質をコントロールしにくい点などにある。それゆえ、全国で放牧されている牛の数は、乳用牛では総飼養頭数の約2割しかいないという。 それでも放牧飼育をする理由を尋ねると、名徳は笑いながらこう答えた。 「広い牧草地を、牛たちが自由に、のんびり歩き回っているのが、大阪出身の僕の中の“北海道の酪農”のイメージなんです。 それに牛たちにはのびのびしていてほしくて。天気がいい日はきっと、牛たちも青空の下を散歩したいじゃないですか。だからどうしても放牧がしたかった。放牧をしている理由の一つは、ロマンですね(笑)」 実は名徳牧場で放牧飼育を行っているのには、ロマンを叶える以外にももう一つ理由がある。 本人曰く、名徳は全くの酪農素人だった。そんな自分がイメージする酪農といえば、「放牧型の酪農」。おそらく消費者の多くは「北海道の酪農」と聞いた時に放牧型をイメージしているだろうと名徳は思ったのだ。 イメージ通りの酪農をしているほうが、消費者から見て、牛にもストレスがなさそうだし、消費者にも品質が高い牛乳だというイメージを持ってもらいやすい。 商品として売り出すことを視野に入れた時のストーリー性を重視したのも、放牧をしている理由の一つだ。