健康的な生活をしてきても避けられない“老化の現実”…長生きすると体に生じる「異変」
アンチエイジン愚
アンチエイジングには大きく分けて二種類あります。 ひとつは外見の老化を防ぐ方法、もうひとつは内臓機能や細胞の老化を防ぐ方法です。長生きを求める人の多くが興味を持つのは後者でしょう。すなわち、見た目ではなく心身の老いを防ぐことです。 そのために使われるのが、薬や注射やサプリメントです。もちろん、いずれも医療保険の適用はありません。それは病気の治療でないからではなく、効果が証明されていないからです。 アンチエイジングを謳うサプリメントでは、専門家によるデータを公表しているものもありますが、いずれも消費者の目をくらますための手前味噌 のデータで、とても公正なものとはいえません。 最近注目されているメトホルミンやNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、「抗老化効果」があるとされていますが、いずれも実際的な効果が証明されているわけではありません。いろいろ研究もなされていますが、多くは酵母やヒドラ(クラゲ目の刺胞動物)、線虫、マウスなどを対象としたもので、その効果が即、人間にも応用できるとはとても思えません。 それでもこれらのサプリメントをのんで元気になったと感じる人もいるでしょう。それは雨乞をしたら雨が降ったというのと同様、因果関係の証明にはなりません。特にこういうサプリメントは高額ですから、高いお金を払った分、効果があるにちがいないというバイアスもかかり、プラセボ効果(心理的な影響による効果)が出やすくなります。加えて売る側の宣伝文句も強烈なので、「信じる者は救われる」効果も出るでしょう。 おまじないでも効果があればいいわけですから、一概にサプリメントを否定するわけではありませんが、その根本にひそむ「いつまでも若くありたい願望」が、老いの現実をより苦しいものにすることを私は危惧します。欲望と執着は苦を生むだけですから。 今ひとつの外見に対するアンチエイジングは、簡単にいえば美容整形です。これはサプリメントなどとはちがい、実際的な効果があります。今は美容整形の技術も向上し、80歳を超えても皺しわもシミもたるみもない自然な顔を造り上げることができます。さらには化粧品と化粧テクニックも洗練され、お金はかかりますが、見事な外見上のアンチエイジングが実現されています。 以前、大学の同級生の宴会で、似たような年齢なのに若く見える者、老けている者がいるので、やっぱり白髪や禿頭は老人に見えるのかと話していたら、仲居さんが「わたしらはそんなところは見ません。お年は首筋でわかります」と教えてくれました。いくら顔を若々しく造っても、首筋を忘れていたら年齢はバレバレということになります。 美容整形と化粧の技術は進歩しましたが、外見上の若さと美貌に専心しすぎると、きりがありませんし、出費もかさみ、内面の浅はかさが露呈する危険もあって、あまり好ましくないことになります。
久坂部 羊