ユニクロ社員たちが強いられる「守秘義務」は本当に正しいことなのか…?「潜入取材」で暴いた秘密主義企業の「マインドコントロール」、その怪しき手口
「あなた、潜入してますね」
――柳井正さんは横田さんと週刊文春の取材を一度うけたきり、その後は一切うけつけてくれなくなりました。逆に潜入したことで、それまで取材を拒否されていた企業の経営陣が取材をうけざる得なくなったということもありました。 はい。ヤマト運輸ですね。ヤマトについては、最初は話をしてくれるドライバーをさがして日本中を回っていたんですが、話を聞いても断片的な情報しか入らずに全体像がまるで見えてこなかった。これではらちがあかないなという感じでしたね。 だったら潜入しましょうということで、ヤマトの物流ターミナル「羽田クロノゲート」にひと月潜入したんです。そこには労組のパンフレットや会報みたいなものがたくさんあって、労働時間から残業時間、サービス残業の実態まで手に取るようにわかった。ヤマトの働き方の全体像が見えてきたんです。 それを、ヤマトの広報に労働時間などを伝えて「現場はけっこう大変ですね」なんて言ったら、「何で知ってるんですか」となった。「横田さん、もしやあなた潜入してないでしょうね」と(笑) ――そこで、バレちゃったんですね。 そうそう。当時はまだ名前も売れてなかったから、横田増生の本名で潜入していたんですね。それを広報が社内データに照合したんでしょう。「おいおい、横田がクロノゲートで働いとるやないかい」となった。 それまでヤマト運輸の広報は、ぼくの取材はうけないという方針だった。「ここ1年間、取材は受けていません」というんですが、そんな話を聞いた矢先に日本経済新聞に社長のインタビューが載ってたりするわけです。「いやいや、取材うけてますやん」と。社長インタビューなのに広報は「それは勝手に日経が書いたんです」なんてことを言うわけです。 でも、ぼくが潜入していることが分かるとこれは逃げられないと思ったのでしょうね。当時の常務執行役員で、のちにヤマト運輸とヤマトホールディングスの社長になる長尾裕さんに取材が叶った。広報が「1時間ですよ」というなかで、2時間も聞かせてもらったけど、それでも秘密体質は変わりませんでしたね。 その後、ヤマトでは数百億円規模の未払い残業代の問題が噴出したんですが、そのときは各支店に「横田が潜入取材をしようとしている」「苗字は横田だけでなく、妻の苗字と二通りがあるから気をつけろ」なんてメールを一斉に送ったんですよ。だから、企業というのは秘密体質から抜けきれないんですね。 でも、その後いろんなところで記事にしたら、トラックドライバーがたくさん告発のメールをくれるようになりました。