賃上げしても「給料安い」と憤る若者の何が問題? 経営者と従業員との間にある「情報の非対称性」
若い社員は、以下の3つの事柄について著しく理解が足りなかった。 (1)賃金の詳細 (2)賃金の水準 (3)賃金の決定プロセス まず、賃金の詳細である。詳しくアンケートをとったところ、毎月振り込まれる金額(手取り)と、給与所得を区別できない者もいた。賃上げによって手取りが増えるとは限らない。賃上げに伴い、税金や社会保険料も上がるからだ。それを理解できていない若い社員のなかには、 「なぜ、後輩のほうが給与が高いのかわからない。学歴の差か?」
と文句を言う者もいた。また、社会保険料については会社側が社員の見えないところで半分を支払っているため、実は社員が見えている額以上に「賃上げ」は行われている。しかし、それを理解できていない若者が大半だったのである。 残念ながら、このような無理解は若者だけではなかった。調べてみると管理職も同じで、 「中小企業なんだから我慢しろよ」 と言うだけで、 「結局いくらになるのか、と思って計算したら微々たるものだった。話にならない」
と嘆く若者に対して、先輩や上司もキチンと説明できなかったのである。 ■社長が賃金をどのように決めているのかへの無理解 次に給与水準である。若者たちは業界における水準をまるで知らなかった。だから「十分なのか/不十分なのか」の判断ができなかった。感覚的に、 「物足りない」 と言ってしまっただけなのである。 恥ずかしながら、これは私も経験がある。私が20年以上前まで勤めていた日立製作所では、当時のシャープやソニーと比較して給料が低いという不満があった。しかし、東芝や三菱電機など、同じ総合電機メーカーと比べると決して低いものではなく、リーディングカンパニーとしての水準は保っていた。
その後、中小企業のコンサルタントになってからは、日立製作所の平均収入が実に高い水準にあったことを思い知らされた。当時の私は「井の中の蛙」だったのだ。 この企業の賃金水準も決して低いものではなく、むしろ今回の見直しによって水準以上になっていたのだ。 最後は、賃金の決定プロセスだ。これはとても重要なポイントだ。この企業は成熟ステージにあり、生産性が上がらないことが経営課題となっていた。労働生産性分析をしてみると、1人当たりの付加価値は業界平均を下回っている。したがってコンサルタントからは、