賃上げしても「給料安い」と憤る若者の何が問題? 経営者と従業員との間にある「情報の非対称性」
「生産性が上がってから賃上げしてはどうか」 と指導されていた。まっとうなアドバイスである。 しかし社長は、 「生産性を上げてからでは遅い。先に賃上げをするんだ。私は社員を信じたい」 と英断した。まずは労働分配率を上げることを決めたのである。専門家としては、賃上げの背景に、社長のこうした心意気があったことを社員全員が理解すべきだと思う。 ■なぜ若者たちは「社長に謝りたい」と言ったのか? 現代の労働環境では、「心理的安全性」が重要視されている。多様な意見を受け入れることが生産性アップに繋がると信じられているからだ。
とはいえ、正しい知識、理解がないまま発言を許すと組織が混乱する。若者たちは率直な意見を言っただけだ。しかし人事労務コンサルタントによる勉強会が開催されたあとは、誰ひとり不満を言わなくなった。講師が、 「どんな意見でも受け止めます。何でも言ってください」 と促すと、 「社長に謝りたい」 「この会社のことが、いっそう好きになりました」 「もっと経営について勉強します」 と謙虚な発言が相次いだ。いっぽう管理職の面々は自覚が乏しい。
「最近の若者は、勉強せずに発言しますからねェ」 「心理的安全性が大事とはいえ、なんでも言えばいいってもんじゃないよ」 と、他人事のように言っている。若者たちのように謙虚に受け止めていないため、さらなる勉強会の追試をすることになった。 今後、賃金は業績連動型の色を強くし、貢献度合いによって報酬が変動するのだ。評価者であるマネジャーたちの責任は重い。 最後にまとめたい。外部環境が激変していく時代において「情報の非対称性」は大きな誤解を生むマイナス要素だ。経営陣のみならず、中間管理職はもちろんのこと、若者も経営や組織についての最低限の知識を身につけるべきだろう。
そうしないと、社員としての「責任・権限・義務」それぞれを正しく理解できなくなるからだ。このことは、新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません』に詳しく書いているので、ぜひ参考にしていただきたい。
横山 信弘 :経営コラムニスト