狂気の空力マシンで300馬力 スターリング・モスが395km/hを記録した日 歴史アーカイブ
平たい車体に押し込まれるF1ドライバー
MGの研究開発では、餅を引き伸ばしたような平らなボディで、左右の後輪をぐっと近づけるのが理想的とされた。後部にはフィンが取り付けられ、ドライバーは小さなキャノピーの中に入ることになった。 都合の良いことに、英国のトップF1ドライバーであるスターリング・モス氏は身長170cmと比較的小柄であった。それでも車内には最低限のスペースしかなく、つま先はノーズにほぼ触れ、脚にステアリングラックが当たっていた。エンジンはリクライニングシートの真後ろにある。 このデザインは風洞実験でも効果があったようで、EX179に比べて前面投影面積が10%減少し、空気抵抗は30%も減少した。 ちなみにエンジンは、MGの新型Aスポーツカーに搭載されていたダブル・オーバーヘッド・カムの4気筒Bシリーズで、ショーロックのスーパーチャージャーと84%メタノール燃料を使い、7300rpmで300psを発揮する。それゆえ、このEX181は「轟音の雨粒(Roaring Raindrop)」とも呼ばれた。 同年8月、EX181はMGの英アビンドン本社から米ボンネビル・ソルトフラッツに輸送され、モス氏はヴァンウォールでのペスカーラGP優勝直後にイタリアから駆けつけた。 雨で記録挑戦が中止になるのではと心配されていたが、最終日の午後、モス氏はMGに乗り込み、ステアリングホイールを握った。その数分後、ジョージ・エイストン氏が計測小屋から395km/h(時速246マイル)を達成したことを確認。 その2年後、今度はフィル・ヒル氏の手によって410km/h(時速255マイル)を記録し、2000ccクラスの記録を塗り替えた。 これがMGにとって最後の記録挑戦となった。もし、今年北京で披露されたEXE181がマーケティングツールなら、やるべきことは1つだ。
執筆 AUTOCAR JAPAN編集部