「役目を終えた船」が環境を脅かす、って本当? 船舶の「リサイクル」が急がれるこれだけの理由
条約前の有害な廃棄物処理
1970年頃から欧米諸国では、有害な廃棄物の 「国境を超えた移動」 が頻繁に行われていた。1980年代に入ると、欧州の先進国からアフリカの途上国に放置された廃棄物が原因で環境汚染が発生するようになった。 この状況を受けて、国連環境計画(UNEP)が中心となり、有害廃棄物の越境移動に関する国際的なルールとして1989年にバーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動およびその処分の規制に関するバーゼル条約)が採択され、1992年に発効した。 しかし、バーゼル条約は有害廃棄物についての規定はあるものの、船舶のリサイクルについては言及していなかった。このため、シップリサイクル条約が採択されることとなった。 さらに、シップリサイクル条約は2009年に採択されたものの、批准国が増えなかった。そのため、欧州連合(EU)では条約を促進するために、香港条約の要件に一部上乗せしたEUシップリサイクル規則を採択し、発効させた。
循環型経済への道
2025年6月26日以降に建造契約が行われる総トン数500t以上の船舶が対象となり、発効日以前に契約された船については5年間の猶予が与えられる。対象となる船舶には、インベントリ(IHM)第1部の作成と維持管理が義務付けられ、解体する際には本条約の承認を受けている船舶リサイクル施設で行う必要がある。 IHMとは、船上に存在する有害物質、廃棄物、貯蔵物の位置と概算量を記載した一覧表のことだ。船上の有害物質を明記することで、労働者の安全衛生の確保や環境汚染の防止を図る役割を果たす。インベントリは第1部から第3部まで構成されており、第1部は船舶を建造する際に作成し、第2部と第3部は船舶をリサイクルする際に作成する必要がある。 第1部には船舶の構造や機器に含まれる有害物質が記載される。アスベスト、PCB、オゾン層破壊物質、有機スズ化合物の4物質といった禁止または制限される物質や、カドミウム、鉛、六価クロム、水銀などの有害物質を記載する必要がある。 第2部には運航中に生じる廃棄物が記載され、第3部には貯蔵物が記載される。これには油類や廃棄物などの潜在的に有害な品目、家庭用電化製品などの一般的な民生品が含まれる。
未来を変える船舶解体
シップリサイクル条約の採択は、環境保護や作業者の安全を確保するために非常に重要だ。 船舶解体は資源を有効活用する側面もあるが、不適切に行われると深刻な環境汚染や労働災害を引き起こすリスクがある。 この条約の導入によって、国際的な基準が確立され、持続可能な船舶リサイクルが促進されることが期待されている。
岩城寿也(海事ライター)