お金は血、財布は拳銃!? 10冊の本で考える「マネーの正体」と上手な付き合い方
「お金ってなんだ」再考
現代に生きる私たちは、お金をどんなふうに捉えるべきだろうか。元ゴールドマン・サックス金利トレーダーの田内学さんは、著書『お金のむこうに人がいる』で、お金があれば大丈夫というのは錯覚だ、と断言する。 何億円の資産を持っていたとしても、パンを作ってくれる人がいなければ、パン一つ買うことができない。経済はお金のことではなく、人のことなのだ。そう考えると、貯蓄や消費についての見方も変わる。 例えば、老後が不安だからといって、みんなが自分だけのために貯金ばかりするようになったら、どうだろうか。未来を支える人材や技術への投資が不十分になって、自分たちの将来を支えてくれる社会が育たなくなる。お金は人と人のあいだをつないで初めて、意味をもつ。
お金だけじゃない経済?
Financeという英語は、finishと語源を同じくしている。金融的な清算は、もともと関係を清算することを意味していた。お金を払うことで負債を断ち切り、「借りがある」状態から脱することができるからだ。 これはお金の良い機能でもある。負債関係の清算方法がなかったら、人々は一度つくった借りから逃れられず従属関係に縛られてしまう。 とはいえ、今の社会はあまりにも貨幣の「縁切り力」に偏重しすぎて、無縁社会と化しているのではないか。つながりを切るお金の関係だけでなく、つながりをつくる「贈与」の関係も合わせて実践していくべきではないか。そう論じるのが、『21世紀の楕円幻想論』(平川克美/著)だ。 貨幣を使った等価交換一辺倒の「真円」的な社会から、等価交換と贈与システムの両方をあわせもった「楕円」的な社会へ。交換と贈与のふたつの焦点を程よく調和させることで、無縁社会をぬけ出そうと呼びかける。
ブロックチェーン×贈与経済の可能性?
一方で、贈与には、危険性もある。負債感覚をともなう贈与関係がふくらむと、隷属関係が生じ、ときには前近代的な身分や立場の固定にもつながってしまう。 贈与経済の負の側面を抑制しながら、人と人をつなげ、お金だけに頼らない生き方を可能にするにはどうすれば良いか。そこで、ブロックチェーンを活用した新しい贈与のあり方を提案するのが、『贈与経済2.0』(荒谷大輔/著)だ 荒谷さんは、贈与を受けた人が感謝の重さをブロックチェーン上に記録できるシステムを構想し、実証実験も進めている。 贈与行為を分散型台帳に記録しておくことで、その「贈りもの」の意味を固定しすぎず(つまり負債が生む従属関係を固定せず)、かつ「恩を忘れる」リスクも減らし、「いつか何かのかたちでお返しすべきご恩」くらいのモヤっとした状態で持ち続けられるようにする仕組みだ。 ブロックチェーンの「分散力」によって、いままで贈与経済が抱えてきた課題を乗り越えられるか。ビットコインなどブロックチェーンを活用した仮想通貨の動向と合わせて、注視したい。